第23話 刹那と育枝の考えを盗み聞きするさよ
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食事が終わり、お手洗いを済ませたさよが元いた場所へと戻る。
「……あれ?」
周囲を見渡すがそこには育枝の荷物とさっきまで二人が読んでいた本しかない。
試しに周辺を捜索してみる。
すると近くから声が聞こえてきた。
だけど二人の雰囲気がさっきまでと違う。
気になり近くの本棚に隠れて、次読む本を探す刹那と育枝の会話に聞き耳をたてる。
「アイツのこと本気で助けたいと思うか?」
まるで他人事のように語りかける刹那。
「うん。だって見てて可哀想だもん」
「わかった。育枝がその気ならなんとかしてやる」
即答する刹那。
そこに迷いはない。
「だけど忘れるな。万に一つ俺達が負けるような事があったらどうなるかを」
自分達の未来の話しを持ちかける刹那。
「わかってる。その時は覚悟してる」
「結局変わらないな、俺達」
「そうだね。どこの世界でも常に生と死の狭間でゲームしてる」
「だな」
僅かに微笑んで新しく読む本を手に取り中身を確認していく二人。
刹那にはまだ読まなればならない本が一冊あるが、今は育枝が次に読む本を探しているのでそのお手伝いをしている。
その中で少しだけ記憶を振り返ってみた。
初めての異世界。
それは自分達が住む世界とは違う生物が存在し、科学とは別に魔法が存在する不思議な世界。
そこには普段見慣れていない建造物もあった。
例えば街を護る城壁や検問。
かと思えば見慣れた景色の住居や商店街があったりと、まるでファンタジー世界と現実世界が融合したような世界ってのが刹那の第一印象だった。
ファンタジー世界でありながら殺生は禁止されているってのもちょっと不思議だった。
それに魔法が発達しているせいかスマートフォンやフューチャーフォンという物は存在しない。だけど電話機は各家庭ごとにさよの話しを聞く限りあるらしい。と言っても刹那達の世界でいう固定電話みたいた物で外見もかなり酷似している。だけど電気と魔力の両方に対応ってのは実に面白い世界だなと思った。似たような物で例えるなら50Hzと60Hzの電気みたいな物。
科学の進化に全てを捧げた刹那達が元いた世界と科学と魔法に力を入れて発展した今いる世界。似ているようで全然似ていない。科学が刹那達の世界より遅れているのは殺生を当たり前とした戦争が行われていないからだろう。戦争で多くの犠牲を得る事で科学は急速に進化すると言える。これは元いた世界の歴史が証明しており、沢山の命の犠牲の果てが科学の進化。素直に喜んでいいのかいけないのかなんとも言えない。だけどこの世界の戦争――『ダイスゲーム』は命を直接奪う事はしない。その反動が科学の進化ではなく魔法の進化だと言うならなんとなく生態系が変わり技術の進化の速度と波形に変化が生じたのにも納得ができる。
「だけど承認欲求、自己顕示欲、物欲、そう言った物はどこの世界の人間も同じってわけか」
それと人間以外の知性を持つ存在、と心の中で付け加える。
「それが人間って言う生態系が進化し生まれてきた存在の根源なんじゃない?」
「一理あるな」
刹那は思った。
やっぱり世界は欲に溢れていると。
だからこそ人は相手より上に立ちたいと願い、力を欲するのだろう。
それが正しいかなんて知らない。
相手を出し抜き、勝利を得る。
そこに全ての答えがあるとするならひたすら突き進んでいくしかないから。
だけど忘れてはいけない。
人は神ではない。
故に欠陥だらけの生物である。
現に世界で自分一人だけになったら誰も生きてはいけないだろう。
だからこそ欲望の先にある力を手に入れたいと願うのならまず最初に誰か隣に立ってもらい支えて貰う必要がある。
そうすればどんな困難にだってきっと立ち向かえる。
一人で出来ないのなら二人ですればいいだけなのだから。
「なぁ、育枝?」
「どうしたの?」
「地獄の底まで俺と付いてくる気はあるか?」
少し大袈裟かなと思ったが、
「あるよ」
迷いのない言葉がすぐに帰ってきた。
「悪いな。今回ばかりは正直イレギュラー過ぎて絶対は無理だ」
素直に今の心境を伝える刹那。
まだ魔法という物を完全に理解していない以上勝算はやってみないとわからない。
「うん。それで?」
「保険かけていいか?」
珍しく弱気な刹那。
いつもなら負ける事すら考えない。
負けても自分が全てを失うだけだから。
それに大切な人を護って死ねるなら悔いはない。
もしもの時は悲しませるかも知れないがそれは時が癒してくれる。
だけど今回は違う。
自分が負ければ、育枝の未来(元の世界に戻る方法)を失い、さよと琢磨の大切な物が奪われてしまう。
だからもしもの時の保険はしっかりとかけておく。
「いいけど。一人だけ危険な橋を渡るつもり?」
何を言いたいかは想像がつくと視線を刹那に向ける育枝。
自分達だけの都合ならもっと時間を賭けてアギル対策をする。
闘いは何も『ダイスゲーム』が始まってからではない。
緻密な情報収集から始まっているのだ。
相手から見えないところで念入りな準備をし、相手が油断し隙を見せた所を突く。
これが勝負の鉄則。
だけど今回はそれができない。
あの時見た、さよの表情と言葉から時間は残されていないことがわかった。
些細な言葉一つでも涙を流し傷つく程にさよは内心追い込まれている気がしてならない。
「リスクリワードは考えているんだろうけど、せめてさよちゃんには私達の事情もしっかりと話すべきだと私は思うけど……」
何かを訴えかけるように、だけど一歩引いた感じで問いかける育枝。
「いつもそう。私の時だって……今回だって。確かに素直に助けてって言いたくても言えない時はあるよ? でもそれは相手の事も自分と同じくらい大切だから言いたくても言えないだけ。その配慮を無視するのは悪い事じゃない……と思うけど?」
「だから行くんだろ?」
「えっ?」
「絶望を知ったあの日アイツは俺に助けを求めなかった。涙し後悔し自分の愚かさを知った。本当は心に余裕なんてなかったはずなのに俺達に無償で優しくしてくれた。だったらもう十分だろ? 助ける理由なんてさ」
不敵に微笑みそう答えた刹那。
まるでそれが当たり前かのように。
育枝と仲良くしてくれるだけでなく、育枝をいつも笑顔にしてくれる、育枝と仲良しの女の子――さよ。
人の本質は追い込まれた時に嫌と言うほどハッキリと出る。
だけど自身が追い込まれて置きながらその素振りを全く見せずに誰かに親切に出来る人間は本当に人思いで自分だけが助かればいいだなんて決して思っていない。
そんな人柄の良い人間は助けるに値すると刹那は思っている。
むしろそんな人こそ世の中幸せになるべきだと思う。
だからこそ、刹那は視線を本から育枝に移して言う。
「育枝はどうしたいんだ? さよを救いたいか?」
「うん」
「なら最後の確認だ。俺達がダイスの神として戦う時の勝率は?」
「百パーセント」
コクりと頷く刹那。
「で、でも、もし分断されたら?」
「だったら聞くが。その場合『ダイスゲーム』の勝者は全てを得ることが出来る。そのロジックを使えばどうだ?」
「あっ……! なるほど」
ここでようやく刹那の意図に気付いた育枝。
仮に刹那が負けても相手の手の内を刹那が全て出し切らせていれば、それを見て育枝が対抗策を考える事ができる。その上で何かしらの方法で育枝が刹那に変わり再戦を持ち掛け勝利すれば全てが解決できる。これが刹那の作戦だとようやく気付いたのだ。
よくよく考えてみれば、最初から犠牲になるとは一言も言っていない。
短時間で手っ取り早く情報を集めつつ、勝てそうだったら勝ち、無理だったら次の者に後を託す。そうなると後は二人の信頼関係だけが問題となるが、そこはずっと一緒にいる以上問題にはならない。
「なら、何かしらの方法で二人同時に勝負を挑まれたら?」
ニヤリと微笑む刹那。
「二人同時なら尚好都合だろ?」
「……そうゆうことね」
同じくニヤリと微笑む育枝。
どうやら義兄の思いはしっかりと義妹に届いたようだ。
「……と言うわけだが、いつまでそんな所に隠れているつもりだ?」
その言葉にドキッと反応してしまうさよ。
ばれているならと割り切り、本棚で隠していた身体を出して二人の元に出て行く。
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