ウォーヘッド・レイザーバック中隊戦記

南極ぱらだいす

第1話 プロローグ

喉が渇いた。


水が飲みたい。


でも、水は貴重だから、俺はいつでも小石を口に入れる。


小石を口の中で転がすと、唾液が分泌されて、ほんの少しだが、喉の渇きを癒してくれる。


俺は外の様子を確認するため装甲車の上面ハッチを開け、頭を外に出し、双眼鏡で辺りを見回した。


荒涼とした大地とあちらかちらに点在する廃墟と化した都市の残骸。


動くものは何もない。


雲一つない青空から、灼熱の太陽の光が降り注ぐ。


俺は無線機を手に取り、スイッチをオンにする。


「こちら、レイザーバック1、各小隊状況を報告しろ」


「こちら、レイザーバック2、異常なし」


「レイザーバック3、こちらも異常ありません」


「レイザーバック4、シン、いいかげん移動しよう。ここらには奴らはいないぜ」


「ダメだ、ドローンの偵察結果を待ってからだ」


俺がレイザーバック4と話していた時、無線席のジムが大隊本部からの命令を伝えてきた。


「フォックスキャッチャーから入電。「直ちに移動し、時間内に物資をエリア47までに輸送されたし」以上です」


ジムは12歳、先月うちの中隊に配属さればかりの新兵だ。


「シン、大隊本部からの命令だ。すぐに出発しよう」


レイザーバック2の小隊長、アルベルトがいつものように俺に催促してきた。


「・・・ダメだ」


「抗命罪で軍法会議にかけられるぞ」


アルベルトのヒステリックな声がイヤホンに響く。


まったく、これでよく4年も生き延びたもんだ。


俺の隊に来てから3か月しか経っていないが、こいつの泣き言には毎回うんざりさせられる。


今までこいつが所属していた部隊はみんな全滅しているが、奇跡的にこいつだけは生き残った。


よほどの強運の持ち主なのか、いや、こいつ自身が死神なのか。


「こちら、レイザーバック4.シン、俺もレイザーバック2に賛成だ。このままじゃ、昼間のうちに目的地に着けない」


軍隊は組織だ。組織というものは人の集まりで、結束していれば個人で行動するより遥かに強く大きな力を出せるが、一人でも隊列を乱すものが出てくると途端に弱くなり、堤防が僅かな亀裂から決壊するように、簡単に瓦解する。


「レイザーバック2,4、うちらの隊長はシンだ。うじうじ泣き言いってるじゃないよ。シンが待つっていってるんだから、命令に黙って従ってりゃいいんだよ」


さすがはキャッシー、レイザーバック3の小隊長で、俺と2年も付き合ってるから他のモヤシ連中とは根性が違う。まだ、16歳だっていうのに、まったく女にしとくには惜しい奴だ。


「イーグルアイからの索敵結果を受信。半径50キロ圏内にⓇの存在を感知せず」


「よし、それではこれよりレイザーバック1を先頭に全車縦隊を組み、速やかにエリア47に向かって移動を開始する」


各車から「了解」の合図を受けると、俺は無線を切り、車内の副操縦席に座る。


俺の代わりに、サラが上面ハッチを開けて、回転式の機銃座に座る。


サラも俺との付き合いは長く、女ながら中隊一の機銃手で、あだ名は「ブッチャー」、肉切り包丁だ。可愛い子なのにひどいあだ名だ。


俺は運転席のマックの肩を叩き、いつもと同じ、もう何百回もいったセリフを口にした。


「じゃあ、行こうか、肉袋どもの群がる地獄巡りの長距離ドライブに」


マックがアクセルを踏むと、装甲車は物資を満載したトレーラーを引きずりながら、砂と乾いた大地の上を目的地に向かって、ゆくりと動き出した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る