第49話:戦闘妖精《コンバット・フェアリー》
1943年5月6日、時刻10:30、天候快晴
サモラ島沖から北へ50kmの海域を米第51特務部隊所属の試験機運用母艦インディペンデンスが十数隻の護衛艦を伴い航行している。
「《こちら
『《ピクシー01から
「《
『《ピクシー01了解、是よりテスラ・コイルシステムを起動、無線封止を行う、オーバー》』
「《……テスラ博士、準備は整いました、開始して宜しいですね?》」
「《ああ、ごほっ! 初めてくれたまえ……ごほっごほっ!》」
航空管制のやり取りの後、インディペンデンス艦長が横に立っているニコル・テスラに確認を取る、その表情には緊張の色が見て取れ、この実験が通常の試験機運用実験では無い事を物語っていた、その艦長の緊張を肯定するかの如くテスラもまた緊張した面持ちで実験開始を促す。
「《……分かりました、ハウンド・ドッグ隊を発艦させろ!》」
「《
『《こちらハウンド1了解した、是よりハウンド・ドッグ隊全機発艦する!》』
航空管制とハウンド・ドッグ隊隊長のやり取りの直後、艦内が慌しくなりエレベーターより白と黒のコントラストが特徴的な戦闘機がせり上がって来る、それはXF4Uグレイファントムに良く似ているがスラスターの形状と細部が若干異なっている。
この機体はクリスが命懸けで持ち帰った戦闘データを元に完成されたXF4Uの先行量産型、F4Uコルセアであった。
最大速力と加速力は若干低下したものの、XF4Uでは20㎜と12㎜各2門であった機銃を30㎜機関砲2門に纏め、可変翼制御システムをオートマチックにする事で操縦性を大幅に改善している。
我々の世界のジェット戦闘機の発艦であれば、この時機体後方に
人間が機体後方に立っていてもスラスターの発する風圧で吹き飛ばされる程度である(吹き飛ばされた結果打ち所が悪くて死ぬ事は多々あるが……)
『《ハウンド1、エルスト・イェーグ出撃する!!》』
『《ハウンド2、ジェリガン・メイス出る!!》』
先ずは1番機と2番機が空に射出され、間を置かず次の2機がカタパルトに設置されると程なく空に上がって来る。
『《ハウンド1から各機へ、我々は博士御自慢の新型機の
『 『 『《サーラジャー!!》』 』 』
『《そうとも、俺達は
隊長のエルストが威勢よく言葉を発し士気を上げる、それに隊員達は呼応し、特にジェリガンは眼光鋭くまだ見えぬ
・
・
「《どうだね? ごほっ! レーダーに反応は有るかね?》」
「《……いえ、反応有りません、ピクシー01が
「《……順調……と言う事でしょうか……》」
「《……墜落したと言う事は?》」
「《不吉な事を言わんでくれ……ごほっ! ……試験飛行では問題無かったのだ大丈夫であると祈ろう……ごほっごほっ!!》」
「《大丈夫ですか博士?》」
「《ああ、只の風邪だよ、問題無い……ごほっ!》」
艦橋内ではテスラ博士が杖を片手に咳き込みながら緊張した面持ちで窓の外を見つめる、ブリッジクルー達は双眼鏡で外を見る者、レーダーでピクシー01を補足しようと躍起になっている者に分かれていた。
そして空に上がった4機の
『《ハウンド1より
『《こちら
『《ちっ! もうしてるっつーの!》』
『《私語は慎めノイシュ、任務中だぞ!》』
『《そう言ってやるなよライル、奇襲で撃墜されるとしたら
『《おいこらジェリガン、テメエ年下のくせに生意気だぞ?》』
『《お前達騒ぎ過ぎだ、もっと緊張感をー-》』
『《ー-っ!? 隊長、2時方向上方、空が
ハウンド・ドッグの面々が軽口を言い合っている時、左翼に付いていたライルがいち早く異変に気付き叫ぶ。
『《ー-散開っ!!》』
ライルの報告を受けた隊長のエルストが即座に叫ぶ、各隊員はその声に機敏に反応し即座に回避行動に移る。
刹那、数発の射撃音と共にノイシュ機が赤く染まった。
『《
ノイシュは一度天を仰ぎ両拳で自身の膝を叩き悔しがる、ノイシュの機体を赤く染めたのは演習用のペイント弾であった。
そして高速で移動する
ハウンド・ドッグ隊の前に
『《……1機撃墜、
その白い機体『XFAF-01試作戦闘攻撃機・シルフィード』に乗るパイロットがボソリと独り言ちながら手足は機敏に機体を操作している、その声は明らかに年若い少女で有った。
『《
言うが早いかジェリガンが歯を剥き出しに叫び
『《待てジェリガン、迂闊に飛び込むなサッチウェーブに持ち込め!!》』
『《いや、それで良い
『《サーラジャー! ジェリガン・メイス、吶喊するぜっ!!》』
『《ー-っ!
ライルが単機突撃するジェリガンを諫めるが隊長のエルストはその行為を肯定する、ジェリガン機はそのまま真っ直ぐ
『《ちっ! ちょこまかとぉ!!》』
『《ライル、下から回り込めっ!》』
『《
『《う……くっ! あと2分40秒……
ジェリガンに続きライル機とエルストの連携攻撃が
『《くそっ! 妙な装置積んでてもベースが
『《それにあのパイロット、明らかに操縦技術は未熟なのに攻撃が全く当たらない……まるで、我々の攻撃を全て予測している様に……っ!》』
『《ウルキア人は感が良い者が多いとは聞いていたがこれ程とはな……!》』
そう言っている間にもハウンド・ドッグ隊は
『《あと……1分50秒……!》』
だが3機の攻勢の前に
故にピクシー01は
『《いい加減当たりやがれぇー--っ!!》』
ジェリガンが叫びながら機銃を乱射する、が
『《今度こそ墜とさせて貰うっ!!》』
その行動を予測していたライルが降下して来る
『《なっ!? 今の
『《ー-ああ、まだ
『《感心してる場合かよ! 早く追って墜とさねーとまた消えちまうぞ!!》』
戦闘の最中に成長するピクシー01、それにライルとエルストは驚愕しジェリガンは焦燥感を募らせる。
『《あと……30秒……!》』
『《くそっ、引き離される……! なんで半分垂直翼みたいな機体に高速モードの
『《あの方向……
『《ー-っ!? 拙い、ヤツの機体が……!!》』
『《くっ! ハウンド1から
ハウンド・ドッグ隊隊長エルストが苦虫を噛み潰したような表情で無線を使う、この時点で母艦防衛は失敗、ハウンド・ドッグ隊の戦術的敗北が決定してしまったからである。
・
・
『《--! 艦長、ハウンド・ドッグ隊突破されました、ピクシー01が本艦に向かっています!!》』
『《ほう、来たか、レーダーは?》』
『《反応有りません!!》』
『《ふむ、目視は?》』
『《……機影確認出来ず、との事です!!》』
『《むぅ、司令……》』
『《やれやれ、演習弾でもそこそこの値段はするのだが止むを得んか、全艦対空砲火弾幕展開!!》』
インディペンデンス艦長は落ち着いて状況を確認し横にいた戦隊司令に判断を委ねる、戦隊司令は肩を竦めシニカルに笑った後、艦隊に弾幕展開の指示を出す。
するとインディペンデンスを中心とする十数隻の艦から一斉に対空砲火がばら撒かれ蒼空に砲声が響き渡る。
然しこの時
そして
それらを尻目に
艦隊に突入してからこの間僅か十数秒、機体正面にインディペンデンスの
この時インディペンデンスの
直後、ノイシュ機の後方から凄まじい破裂音が響き
『《ぶへぇ! ぺっぺ……! な、なんじゃこりゃぁー--!!
ピクシー01の放ったペイント爆弾によって愛機の内外、そして自分自身が真っ赤に染まったノイシュが空に向かって放送禁止用語を連発し怒鳴り散らすが、相手の見えないその叫びは蒼空に空しく響き渡るだけであった……。
その時、艦隊前方に3機の機影が近づいて来る、
『《くそ、遅かったか……!》』
『《ヤツはどこだ、どこ行きやがった!?》』
先程まで派手に撃ち上がっていた対空砲火が止んだ事で事態を察したエルストがまたも表情を歪める、ジェリガンは鋭い目つきで周囲を見渡すが
『《此方からは見えなくてもピクシー01からは私達が丸見えのハズ、周囲警戒をー-うっ!?》』
『 『《ー-っ!?》』 』
その時、乾いた射撃音と同時にライル機が真っ赤に染まる、それにエルスト機とジェリガン機は即座に反応し回避行動を取る。
『《ちぃっ!! 見えなきゃ警戒のしようがねーだろっ!!》』
『《
エルストが複雑な
『《くっ! 抜かった……!!》』
『《隊長っ!? クソっ!! 何故だ……俺達はエリートだ、選ばれたエリートのハズなんだ、いくら姿が消える戦闘機だろうが2ヶ月足らずの飛行経験しか無いウルキーの小娘にこうも翻弄されるとは……っ!? くそくそくそぉー-----っ!!!》』
僚機2機を一瞬で撃墜され1機残されたジェリガンは叫びながら周囲に機銃を乱射する、がその射撃音は空しく蒼空に響くのみであった、そしてジェリガンの機銃から空転の音が鳴り響く、弾切れである。
その次の瞬間、ジェリガン機の真後ろから光学迷彩の切れた
『《ー-っ!? くそったれぇっ!!》』
ジェリガンは表情を屈辱に歪ませながらも回避行動を取ろうとするが、それよりも先に
『《ミッション・コンプリート……》』
ピクシー01がコクピット内でボソリと呟いた次の瞬間、インディペンデンスから3つの信号弾が打ち上げられた、演習終了の合図である。
・
・
演習は終わり母艦に帰還したハウンド・ドッグ隊の面々は機体を整備員に任せ不機嫌そうに艦内に戻って行く、特にジェリガンは荒れており愛機から降りた瞬間ヘルメットを飛行甲板に叩き付けていた。
その数分の後、
「《よーし、お姫様のご帰還だ、タラップを持って来てくれ!》」
危うい着艦をした
「やぁお疲れ様、見事な襲撃だったよ、お陰で僕もこの通り戦死判定さ!」
そう言うとディックはお道化ながら両手を広げペイント塗れの自分の姿をピクシー01に見せる、その表情は緩んだ笑顔で有り彼女を責めている訳では無い事は明らかだった。
「《ごめんなさいディックさん、人の居ない所に落としたつもりだったんだけど……》」
そういって申し訳なさ気にヘルメットを取るピクシー01から日の光に輝くような白銀色の頭髪が流れ落ちる、そしてまだ幼さを残す美しい顔立ちのピクシー01と呼ばれた少女はスラムに住んでいたアルティーナ・シオンであった。
「《仕方ないよ、本当なら演習中は
そう言ってディックがウィンクをしながらニカっと笑うとアルティも釣られて笑顔になっていた。
「《いたいた~お帰りアルティ~!》」
艦橋側から声をかけて来たのはクリスティーナの同僚で有ったメリエールだった、その背後にはディハイルもいる。
「《あ! メリー、ディハ、ただいま~!》」
メリエールの声に気付いたアルティは笑顔でブンブンと手を振る。
「《それじゃあ、機体は僕達がしっかり見とくからゆっくり休みな!》」
「《うん、ありがとうディックさん、
そう言ってディックにニッコリと微笑んだアルティはぱたぱたとメリエール達の下に駆け出して行き、その後姿をディックは微笑ましく、だが少し物悲し気に見つめていた……。
・
・
「《欧州戦線のトップガンであるイェーグ大尉の率いる部隊を全滅判定、本艦にも中破判定を出すとは、素晴らしい実験結果ですぞ博士、直ぐにでも量産し実戦配備をするべきです!》」
インディペンデンスの艦橋でテスラに随伴していた海軍技術将校の一人が身振り手振りも大げさに興奮気味の口調で語っている。
「《トップガンなのはイェーグ大尉だけで他の3名は略ルーキーですがね……》」
興奮気味な技術将校に小声で冷ややかな突っ込みを入れるのはインディペンデンス艦長『エドガー・シャイプス』中佐である。
「《
「《いや然し博士……キンメル長官は即急な成果を期待しておいでです、その理由は博士も良くご存じの筈でしょう!》」
あくまで慎重に事を進めたいテスラに技術将校は明らかに不満と焦りを露わに食い下がる、その時艦橋内に聞きなれない靴音が響く、兵靴の武骨な音では無くもっと上品な音である。
その音の主であろう一人の女性が姿を現した、軍艦には不似合いな赤いハイヒールを履き輝くプラチナブロンドを後ろで束ね白衣に身を包んだ知的で美しい妙齢の女性である。
「《うふふ、『
艦橋内に入って来るなり女性は優雅に歩を進めながら妖艶な声と視線を技術将校に向ける。
「《う、むぅ……(確かにエルドリッジの様な事故を起こされては私も前任の担当官の様に責任を問われかねんか……)……仰る通りここは慎重に進めた方が良さそうですな、キンメル長官には今暫くお待ち頂くよう進言しておきましょう、然しキンメル長官は気の長い方では有りません、あまり悠長にされては困りますぞ?》」
「《……ごほっ! 分かっておるよ……(時間が無いのは私も同じだからな……)》」
技術将校は白衣の女性の言葉に思案顔になり打算を纏めた後テスラに釘を刺して艦橋を後にした、恐らくキンメルに言い訳をする為に通信室へ向かうのだろう。
「《助かったよエレーナ君……ごほっ!》」
「《うふふ、博士のサポートをする事が
テスラ博士にエレーナと呼ばれた白衣の女性は
~~登場兵器解説~~
◆F4U艦上戦闘機・コルセア
最大速度:1080㌔
加速性能:12秒(0キロ~最大速到達時間)
防御性能:B
搭乗員:1名
武装:30mm機関砲×2
動力:PWR2800-8Wエンジン
推進機:双発・PWR2800PS-5フォトンスラスター
航続距離:2600km+1000km|(バッテリータンク)
特性:艦上運用可 / 可変翼機動システム(AT) / エアスラスターシステム
概要:XF4U-グレイファントムの量産型機、武装を30mm機関砲2門に纏め可変翼機動システムをオートマチック化した事により操作性が飛躍的に向上している。
最高速度と加速力でXF4Uに劣っているが火力と操作性、航続距離で勝っている為、兵器としてはXF4Uを上回っていると言える。
◆XFAF-01試作戦闘攻撃機・シルフィード
最大速度:1280㌔
加速性能:10秒(0キロ~最大速到達時間)
防御性能:B
搭乗員:1名
武装:30mm機関砲×2 / 250㌔爆弾
動力:TSL-01ハイブリッド・フォトンリアクター
推進機:双発・PWR3200PS-1フォトンスラスター
航続距離:巡航速無限
特性:艦上運用可 / エアスラスターシステム / TCシステム / 光学迷彩
概要:レインボー計画(旧フィルデルフィラ計画)の為にクリスの愛機であったXF4Uを改造した機体であり外殻には
主翼は横に広げた状態で固定されている様な形状をしているが可動翼は一度取り外されておりフレームから再構築されており主翼の垂直翼部分は艦載用の折り畳み機構を備えている、またXF4UやF4Uよりも垂直翼は短くなっている。
本機の最大の特徴は
本機の動力はハイブリッド・フォトンリアクターによって航続距離は巡航速であれば理論上無限であるが、TCシステムや光学迷彩を使用していると巡航速であっても動力切れを起こす可能性がある。
また、TCシステムは常時可動が可能だが光学迷彩は5分毎に3分のインターバルを必要とする。
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