第12話:第二次ソロン海戦後編~~攻防の決着
1942年8月23日、時刻16:30天候曇り、海上には輸送船から降ろされた数十艇の内火艇が必死に海岸を目指していた、そこに内火艇を下ろす為に沿岸に停船する輸送船団を獲物と定め、米航空隊が襲い掛かる。
海上は既に地獄絵図の様相を呈している、揚陸作業中米攻撃機の爆雷撃を受け無残に沈んでいく輸送船、砲撃や銃撃で内火艇が沈み放り出された日輪兵が残骸に必死にしがみ付き、ある者は半分沈みながら残骸を掴み負傷した仲間を抱え陸を目指している。
無事な内火艇や第八艦隊の駆逐艦4隻と第二艦隊の駆逐艦若葉から降ろされた救助艇が必死に海に投げ出された仲間を救助しようとするが、そんな彼らに米軍機は容赦の無い銃撃と爆撃が浴びせられた。
戦闘は米軍の圧倒的優位で経過し、日輪軍は只無防備に損害を出すばかりであった、現在日輪帝国海軍の展開は、ガーナカタル島への上陸地点、エスペランサ岬の海岸を目指す上陸部隊と、それを護る第八艦隊独立旗艦、重巡鳥海、軽巡天龍、駆逐艦
その2km東に展開し敵艦隊をけん制する第二艦隊、第二戦隊比叡、霧島、臨時旗艦重巡利根、その更に2km東に展開し米艦隊撃滅を目指す第五艦隊、第一戦隊、重巡青葉、衣笠、古鷹、同第二戦隊、軽巡
米艦隊への攻撃を取り止めて、輸送船団の護衛に急行する第九艦隊独立旗艦重巡愛宕、同第一戦隊、軽巡
「何故ラウバル航空隊は来ないのだっ!?」
眼前の惨状に鳥海の艦橋で声を絞り出す様に叫ぶ三川提督、その彼の言葉に答えられる者は居なかった。
本来であれば艦隊がインディスベンセイブル海峡に差し掛かる頃にラウバル航空隊の海軍零式艦上戦闘機ニ型15機、陸軍一式戦闘機一型45機から成る編隊が合流する筈であった。
しかし事前に日輪軍の暗号電文を解読していた米軍は、豪州にラウバル基地空爆を要請、本大戦で日輪軍に煮え湯を飲まされ続けた豪州軍は、是を好機と大爆撃編隊を以てラウバル空襲を実行した。
結果として豪州軍は其の編隊の7割を失う大損害を被ったが、ラウバル基地も大打撃を受け、航空戦力の2割を喪失、滑走路の大半と蓄力施設も損害を受け、通信施設が完全に破壊された為、とても護衛編隊を出せる状況では無くなり、それを艦隊やトーラクに伝える事も出来なくなっていた。
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そんな中、米航空隊は弾薬を使い果たしたのか次々と飛び去って行く、やっと終わった、と安堵する日輪兵の耳に、そう間を置かず再び不吉な
その数はまたも100機を越えており、凄惨たる蹂躙が三度始まった、その状況の中、ようやく第九艦隊が輸送船防衛に加わり、各艦が一斉に対空射撃を行う。
しかしそれでも米航空機を防ぎ切る事は叶わず海上の上陸部隊は米戦闘機の銃雷撃と艦砲射撃に曝され、無事上陸した者達も、米攻撃機からの爆撃の脅威に曝されている……。
「だめだ、航空支援も無く空襲を受ける上陸部隊を守り切るなんて、出来っこないっ!!」
「泣き言をいうな! 俺達が諦めたらあいつ等はどうなるんだっ!!」
「ちきしょうっ!! ちきしょうっ! ちきしょぉおおおっ!! 落ちろっ! 落ちろよぉおおおっ! 落ちてくれぇえええっ!!」
目の前の一方的な虐殺に最も精神をすり減らしているのは甲板上で機銃を撃つ対空要員達であった。
上陸部隊の護衛として残り、この事態をある程度想定し内火艇の準備していた第八艦隊と違い、何の準備もしていない第九艦隊が対空戦闘中に内火艇を降ろす事は難しく、目の前で溺れていく仲間を救助する事も叶わず、執拗に銃撃を繰り返す米戦闘機を泣き叫びながら銃撃しても落とす事もままならない。
上空に向かって射撃する機銃要員であっても、弾倉の交換や運搬時、嫌でも目に入る海上で血塗れとなり、波にのまれやがて溺れていく仲間の姿、年若い者の中には弾倉を抱えたまま甲板上で硬直する者、嘔吐する者も少なくは無く、年配の者も皆涙を流し憤る。
戦争で有れば当然の光景、日輪軍に殺された米兵達も同じ様に感じ、同じ様に憤った事であろう、それが今日は彼らの番で有った、只それだけの事であるが、其れをそう言えるのは、俯瞰的に物事を捉える事の出来る達観した者か、無関係の第三者や傍観者だけである。
現に目の前で同胞を虐殺されている者達に其れを納得しろと言うのは真面な人間であれば無理な話であろう。
その時、突如聞きなれた推進音と共に北の空から9つの機影が飛来する、その姿を見て甲板上の乗組員達は歓声を上げる、銀色の翼を持つその機体は日輪帝国海軍最強の戦闘機、零戦であった。
「ラウバル航空隊か、たった9機で今頃ノコノコと……っ!」
歓声を上げる搭乗員達とは対極に、飛来した航空隊に厳しい眼と言葉を向けるのは利根に座乗する近藤提督であった。
「……っ!? いえ、違います! あれは、第五航空戦隊の、第三艦隊の艦載機です!」
「五航戦だと!? 第三艦隊は海域から離脱した筈では無いのか!?」
「恐らく艦隊離脱後に、航空戦隊だけ戻って来てくれたのでしょう……」
「そうか……」
副官のその言葉に近藤提督は先程とは真逆の愁いを帯びた視線を空へと向け、航空隊に対して敬礼する、たった9機で死地に等しい此の場所へ来てくれた事に対する最大限の敬意であった。
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「離脱する敵機には構うな! 友軍の脅威のみを的確かつ迅速に排除しろ!! 各機散開!」
先頭を飛ぶ岩本が無線で指示を飛ばすと全機から『了解!』と返答が聞こえ、編隊は一度扇状に広がると機体を翻し一気に米航空機に襲い掛かかる、僅かな射撃音と共に数機の米攻撃機の機体が弾け飛び錐揉みしながら海面へと激突する。
「《
「《はっはー! ルーキー! 何ビビってんだよ、いくらジークだってこの数で押せばどうってこたぁねーだろぉ!》」
そう言ってF4F3機編隊が一斉に岩本機に襲い掛かかる。
「《ま、待てっ! ジークに迂闊な
その様子を見ていた米パイロットの一人がそう叫んだ時は遅かった、先程のF4Fが岩本機に向けて射撃するが、岩本機は機体を捻り急上昇すると機体を翻しF4Fの正面斜め上から射撃する、刹那F4Fのコクピットに数発の弾丸が直撃し
「《き、消えたっ!?》」
「《ど、何処だっ!?》」
『《後ろだっ! 回避しろっ!》』
「《う、後ろっ!!??》」
「《う、うわぁあああっ!!》」
先程3機を制止しようとしたF4Fのパイロットが通信機から叫び援護射撃をするが、岩本機は其れを難なく躱しながら射撃、僅か数発分の射撃音で1機が推進機に直撃を受け爆散、もう一機も推進機を損傷し錐揉みしながら落下、地面に激突し木端微塵になる。
陸地に墜落した機からはパイロットが脱出に成功しパラシュートで降下していた、先程ルーキーと呼ばれた十代後半の若者であった、そのルーキーの瞳には僅か9機の零戦に翻弄される友軍機の姿が映っていた。
実は零戦とF4Fは
それでも開戦から今日に至るまでF4Fが零戦に一方的に打ち負かされているのは零戦が防御を犠牲に運動性能に特化した設計であったからだ。
是によって驚異的な加速力と旋回能力を発揮する零戦は熟練搭乗員の操縦技術によって弱点である防御力をカバーし、零戦に比べて鈍重なF4Fを圧倒していたのである。
然し其れを加味しても100対9、戦闘機だけでも4倍以上の戦力比でこの惨状は無様であった、実は先程帰還した攻撃隊とは異なり、この部隊は練度の低い新兵が多く配属されていた。
先の日輪第三艦隊への攻撃にも参加しておらず、アンダーソン基地で日輪攻撃隊の爆撃を受けていた部隊であった、無論全てが新兵と言う訳では無いが、少なくとも3機編隊の内1機から2機は新兵であり熟練パイロットの足を引っ張っていた。
対して零戦の
「《
米パイロットは目を剥き恐怖で顔を歪ませる、彼は熟練のF4Fパイロットで有ったが、だからこそ零戦の恐ろしさをよく知っていた、現状F4Fで零戦に勝つには1対多数でかかるしかないが、僚機が頼りない新兵ばかりでは打つ手が無かったのである。
だが零戦も米攻撃機の数に苦戦していた、目的は輸送船団の護衛であるから、いくら敵機を墜としても輸送船団や上陸部隊が壊滅すれば負けである、更に航空隊の状況の変化に気付いた米艦隊も動きを見せていた。
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また、重巡利根艦橋でも水上レーダーが艦影を確認しており慌ただしくなっていた。
「な、南西距離5万(50km)より敵艦隊の増援確認っ! 艦種不明、数は約30っ!」
「南西からと言う事は、豪州艦隊かっ!? て、提督、このままでは挟撃されますっ!」
「べ、米艦隊後方より敵増援艦隊接近中っ!! 艦種不明、数は約20っ!」
「むぅっ……っ!」
「提督、残念ながら作戦は失敗です、この上は損失を最小限に留める為に
重苦しい空気の中、発言したのは第三戦隊司令、西村少将であった。
「……彼等を、見捨てると? ならん、其れだけは絶対にならんっ!!」
「お言葉ですが、約束された航空支援も殆ど無い中、我々は十分にその責務を果たしました、輸送船からの積み下ろしはほぼ終わっています、今、海上に居る者達も自力で上陸する事は不可能では有りません、皇国の明日の為にも、此処で我々が全滅する訳にはいかんのですっ!」
「う、むぅっ! だが、しかし……っ!」
近藤提督は苦悶の表情で顔を歪め血が滲むほど拳を握り締める、そして未だ海面でもがく上陸部隊の兵士達を見据えた後、艦橋員達に視線を移す。
「……戦いとは、戦争とは、斯くも無情なものか……」
「提督……」
「……現時刻を以て、全ての指令を破棄する、全艦輸送船を護衛しつつ20ノットでラウバルに向け
声を絞り出す様な近藤の指示に、その場の全員が敬礼で応える。
全艦に撤退命令が出され、輸送船団が転舵を始めると第八艦隊と第九艦隊各戦隊がその周囲に護衛に付く、しかしこの時すでに生き残っている輸送船は僅か6隻であった。
先ず第九艦隊第一戦隊が先頭に単横陣で展開、同第二戦隊が右舷に、第三戦隊が左舷に単縦陣で展開し、後方を第八艦隊が複縦陣で護る。
サヴァ島南の水道で米艦隊と交戦していた第五艦隊も転身を始めていたが、この時、重巡古鷹が大破し右に傾き、速度が30ノットにまで落ちていた、同
米艦隊も第五艦隊との交戦で重巡1隻が大破横転(後に沈没)駆逐艦2隻が撃沈され1隻が大破機関停止していた、この為、この時点で米艦隊は戦艦2隻、重巡2隻、軽巡1隻、駆逐艦6隻となっていたが、後方より増援が接近中で有り、日輪艦隊の動きを見た米艦隊は追撃の構えを見せていた。
この為第二艦隊の戦艦比叡、霧島が転身しつつ援護射撃を行い米艦隊を牽制する、この時日輪第二艦隊と米艦隊の距離は20kmを切っており米艦隊は30ノットで接近していた為、その距離は徐々に縮まっていた。
両艦隊はサヴァ島を時計回りになぞる進路を取り比叡と霧島は右舷の米艦隊に向け3回ほど斉射するが命中弾は得られず、離脱の為止む得ず取り舵を取り3番4番主砲のみの応戦に切り替えていた。
既に日は沈み、3割以上の損失を出した米航空戦隊は零戦隊に追い散らされる様に撤退して行き、零戦隊は2機の損失を出したものの何とか上陸部隊を守り切り、フーゲンピル基地へと飛び去って行った。
海域からの離脱を図る日輪艦隊は夜戦であれば日輪海軍の御家芸であり、優位に戦いを進め逃げ切る事も可能、近藤はそう思っていた。
しかし、そんな近藤の思惑とは裏腹にサウスダコタとノースカロライナは不気味に主砲を旋回させている、その先には闇に紛れて見えぬ筈の比叡と霧島を捉えていた。
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「《艦長、レーダーの乱反射による影響の修正を完了、日輪戦艦を距離1万5千で捕捉、主砲、副砲共にデータリンク完了しました!》」
「《ふむ、サウスダコタに報告、リー提督の指示を待て……ヴィクター、よおく見ておけよ、これが近代戦艦の戦い方、艦隊戦術の新たな
ノースカロライナの艦長席に座り、少し歪んだ笑みを浮かべるのは端正な顔立ちとプラチナブロンドが特徴的な40代後半の男性『ベンソン・J・ガブリエル大佐』である、その横にはヴィクターと呼ばれたベンソンとよく似た20代の青年が立っている、が、右手を腰に当て斜に構える其の立ち姿には如何にもやる気が感じられない。
「《聞いているのか、ヴィクター?》」
「《聞いているし見ているよ
「《はぁっ……職務中は
「《失礼
「《う、むぅ……っ、サ、サウスダコタはまだ副砲のレーダー射撃が出来んからな、了解した》」
通信兵の事務的な口調の報告を受け怪訝な表情を浮かべるベンソンで有ったが、やがて口角を上げ、獲物の潜む暗闇を見据える、そんなベンソンの横では相変わらず斜に構えるヴィクターの姿が有った、発言の通りちゃんと学んではいる様だが、あまり興味を持っている様子では無い。
「《レーダー起動、火器管制システムに情報伝達!》」
「《主砲、何時でも撃てます!》」
「《それでは始めようか、新時代の最初の生贄だ、主砲斉射、
ベンソンが口角を上げたまま叫ぶとノースカロライナの前部2基6門の主砲が一斉に火を噴き、雷鳴の如き轟音を響かせる。
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発砲から僅か十数秒で比叡の周辺に巨大な水柱が上がり、艦橋では艦長が慌ただしく指示を出していた。
「くっ! 何処だ? 何処から撃って来た!?」
「見張り員より報告は有りません!」
「水上電探では6時方向距離1万5千に艦影を確認しています!」
「この暗闇の中、その距離でここまで正確な砲撃が出来るものかっ! この場所では電探は当てに出来ん、探照灯を使えっ!」
「し、しかしそれでは本艦の位置が……」
「既にばれているから砲撃を受けているのだろうっ!!」
艦長は言葉を荒げて叫ぶ、然もあろう夜陰に乗じて敵艦に砲雷撃を浴びせるのは日輪海軍の御家芸で有る筈だった、然し今、その御家芸を超える事を米海軍はやってのけている。
「見張り員より、距離6200、5時方向に中型若しくは小型と思しき艦影多数を確認!」
その情報を元に比叡が探照灯を使い米艦艇を照らし出すと、軽巡か駆逐艦と思しき姿が浮かび上がる、其れを受け重巡利根、青葉、衣笠、軽巡阿武隈、駆逐艦若葉が迎撃に向かった。
しかし比叡艦長の顔色は極端に優れなかった、敵戦艦の位置が分からないままであったからだ、このままでは一方的に砲撃を受け、何時かは命中弾を受けてしまう、金剛を一撃で戦闘不能にしたあの砲撃を……。
「……くっ! 主砲、照明弾放て、目標6時方向距離1万5千!」
比叡艦長の指示で後部2基の主砲がきりきりと古めかしい音を立てて旋回を初め、同じくぎりぎりと音を立てながら砲身の仰角を上げていく、そして2基4門の主砲が一斉に火を噴き砲弾を打ち出す。
やがて日輪艦隊から見て東の空が照明弾で明るく照らし出される、其処には2隻の米戦艦の姿が在った。
「……っ! 本当にあの距離で……この暗闇の中、照明弾も使わずに正確な射撃をして来たのか……」
敵の姿を晒し出し、本来なら喜ぶ所であろうが、比叡の艦長は目を剥き驚愕している。
「艦長? 砲撃許可を!」
「……っ! あ、ああ! 敵は見えたっ! 八九式榴弾を装填、敵艦を焼いてしまえっ!」
昼間の戦闘で46㎝砲では米戦艦の装甲を抜けないと悟った比叡艦長は、少しでも敵の戦力を削ぐ為に榴弾を選択し、比叡の主砲がきりきりと音を立てて米戦艦に照準を合わせた、だがその時、耳を
刹那、凄まじい爆音と衝撃が比叡を襲った、艦全体が裂け主砲塔や装甲版が宙を舞い、衝撃で艦橋が崩れて行く、比叡は4番主砲後部をすり抜け侵入した砲弾を3番主砲バーベットに受け、その砲弾はバーベットを易々と貫通し弾薬庫付近で炸裂、誘爆による大爆発を引き起こした、加えて右舷中央甲板にも直撃弾を受け、その砲弾は外殻装甲と隔壁を突き破り前部弾薬庫に到達、そこで炸裂した、艦は3つに爆散し漆黒の海原を炎で照らしながら海底に没して行った、余りにも不運が重なった悲劇の轟沈であった。
「な、なんと言う事だ……っ!」
利根艦上でその光景を目の当たりにした近藤提督は目を剥き愕然とする、そして夜陰に乗じれば得意の夜戦で優位に逃げられると思っていた自分の浅はかさに打ちひしがれていた……。
現時点に置いて近藤の判断が完全に間違っていた、と言う訳では無い、だが少なくとも技術は日進月歩で有る以上、ある程度予測すべきではあった、近藤の脳裏には、第八艦隊の報告書に有った【電探を使用した夜間射撃の可能性】と言う文章が浮かんでいた。
その時米戦艦に向けて突進する艦があった、駆逐艦若葉である。
「雪風に出来て我々に出来ぬ筈はない! 我らが誇る酸素魚雷で比叡の無念を晴らしてくれるっ!!」
若葉は漆黒の海原を疾走し米駆逐艦に気付かれる事無く
「か、艦長……敵戦艦の小口径砲全てが……此方に向いていますっ!!」
艦橋窓から双眼鏡で米戦艦を監視していた士官が徐々に言葉を乱し叫ぶ、その言葉に若葉の艦長が思わず身を乗り出すのとほぼ同時に
若葉の周囲に水柱が上がり慌てた若葉は面舵を一杯に切る、だが
「何で……我々の位置がぁ……っ!?」
愕然とする若葉艦長のそれが最後の言葉となった、
この時利根の近藤は若葉の沈没に気が付いていなかった、米駆逐艦を3隻撃沈したものの、霧島が左舷に魚雷を2発も受けてしまったからだ。
それも当たり所が悪く機関室が浸水した、是によって霧島の速力が15ノットにまで低下してしまったのである。
【ここで ちる われにかまわず さきにゆけ】
その電文を発した
その直後、霧島の副砲と主砲の全てが一斉に火を噴いた、米駆逐艦が魚雷を放ち、米戦艦も手負いの日輪戦艦に対して総攻撃を行う。
霧島の右舷に次々と水柱が上がり、皮肉にも左に傾いていた傾斜が一時的に元に戻る、しかし直ぐに右への傾斜が大きくなり艦が軋む、それでも霧島は果敢に砲撃を続けるがサウスダコタの砲撃が艦中央に直撃し艦橋が傾く。
艦の到る所で金属の軋む音と引き千切れる音が響き、艦首は完全に水没していた、それでも尚主砲は米戦艦を狙い撃たんとしている。
しかし霧島にはもうその力は残されていなかった、霧島は金属の引き千切れる音と共に艦を崩しながら静かに海中へと没して行った……。
その後、米艦隊は深追いを止め、日輪艦隊は何とかインディスベンセイブル海峡を抜け、ラウバルへの進路を取る事が出来た。
こうして後に第二次ソロン海戦と呼ばれる戦いは日輪側の敗北と言う形で終わった、結局上陸出来たのは陸軍6000人、海軍1200人であり、重装備の揚陸にはほぼ失敗していた。
そして艦艇と航空機の損失もまた甚大であった、空母龍驤、戦艦比叡、霧島を失い、駆逐艦3隻を喪失、空母翔鶴、瑞鶴は大破、他の艦艇も15隻が大破若しくは中破し、航空機の喪失も180機に及んだ。
対する米海軍の損失は駆逐艦10、軽巡1、重巡1であり、損傷艦は8隻、航空機の損失は160機であった。
この戦いで日輪海軍は再建しかけていた航空機部隊の大半を失い、それを補う為に建設した飛行場は敵に奪われたままとなってしまった。
これによって日輪帝国は更なる苦境に立たされる事になるのであった……。
【後書き】
~~登場兵器解説~~
◆零式艦上戦闘機ニ型
最大速度:850㌔
加速性能:10秒(0キロ~最大速到達時間)
防御性能:E
搭乗員:1名
武装:20㎜機関砲×2
動力:栄一型蒼燐発動機
推進機:単発・四菱三型蒼燐噴進機
航続距離:2300km+1000km(増漕タンク)
特性:艦上運用可
概要:航空機設計士、堀越 聡次郎が設計した傑作機、驚異的な運動性能と加速性能に加え、増槽タンクによって3000km以上の航続能力を持つ、同時期の戦闘機が1000km程度の航続距離しか持たなかった事からも本機の航続性能が他機を凌駕していることが分かる、反面防御性能は低くF4Fの12㎜機銃に被弾しただけで簡単に落とされてしまう脆さを持っていた、是を搭乗員の卓越した技量で補う事で零戦は最強戦闘機と呼ばれる様になる、因みに日本海軍の零戦とは違い、コクピット周りの防弾性能は確保されている。
◆九七式艦上攻撃機
最大速度:720㌔
加速性能:20秒(0キロ~最大速到達時間)
防御性能:D
搭乗員:3名
武装:12㎜機銃×2
搭載能力:50㎝航空魚雷×1 ⇔ 500kg(500㌔爆弾×1、250㌔爆弾×2)
動力:栄一型蒼燐発動機
推進機:双発・中島五型丙式蒼燐噴進機
航続距離:960km
特性:艦上運用可
概要:日輪帝国海軍の艦上攻撃機、攻撃機として高い運動能力と加速性能を誇り、偵察機としても優秀な能力を持っている。
◆F4F艦上戦闘機・ワイルド・キャット
最大速度:820㌔
加速性能:25秒(0キロ~最大速到達時間)
防御性能:C
搭乗員:1名
武装:12㎜機銃×2
動力:WR1820Sエンジン
推進機:単発・WR1820-3Sフォトンスラスター
航続距離:1200km+800km(バッテリータンク)
特性:艦上運用可
概要:大戦初期のコメリア合衆国の主力戦闘機、堅実な設計で軍関係者やパイロットに高い評価を得ていた本機であるが、防御重視の構造上、防御軽視の日輪戦闘機との相性が極めて悪く、開戦から今日まで苦戦を強いられている。
◆SBD艦上攻撃機・ドーントレス
最大速度:720㌔
加速性能:33秒(0キロ~最大速到達時間)
防御性能:C
搭乗員:3名
武装:後部12㎜機銃×1
搭載能力:50㎝航空魚雷×1⇔800kg(800㌔爆弾×1、500㌔爆弾×1、250㌔爆弾×2)
動力:WR1820Sエンジン
推進機:双発・WR1820-4wフォトンスラスター
航続距離:1200km
特性:艦上運用可
概要:コメリア海軍の艦上攻撃機、抜群の安定性で練度の低いパイロットでもそれなりに乗りこなせた事から採用後に高い評価をされた機体である。
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