14.「孫子」第六章・虚実篇/3

 また、相手に情報を与えないことも重要です。

 すなわち、態勢について「これでいいのだ」という判断はまず棄てて、どのように千変万化しても対応できるような態勢を作り上げることです。

 「兵は無形なり」と孫子も述べています。

 あらゆる状況に対応できる弾力的思考・有機的行動が、戦場を制します。


 こうした「無形」のメリットは、相手に行動を気取られないことです。

 スパイが入り込んでも、これぞといった情報は掴めないでしょうし、また、たとえ相手が同じ戦争上手だったとしても、たぶんこちらの行動を見抜くことは難しいでしょう。

 「勝った」という状態を判断するのは簡単です。

 しかし、「どうやって勝ったか」というのを周知するのは、大変難しい。

 なぜならば、「同じ状況は二度とないし、全く同じ手法が使えるケースなどは存在しない」からなのです。

 相手の動きに呼応していくらでも進軍と戦いのあり方を変える。

 「無形に徹する」ことこそが、勝利への道です。

 それを究めることは、いくら戦いを重ねても無理でありましょう。

 なぜなら「次」にどう戦場が変化するかは、誰にも分からないからです。


 「戦いの基本とは、相手のそなえた部分を避けて、弱い部分を突くことである」とは何度も述べたいと思います。

 それは急斜面へ石を置いて転がせるようなもの、あるいは水の流れるままに委せるようなものだ、と言いました。その原則は変わりません。

 大事なのは、相手の状況に応じて戦い方をいくらでも変えること。

 「無形」、と言いましたが、水に決まった形がないように、戦いも決まった形というのはありません。ただひたすらに相手の行動に対応してやり方を変える。これこそが「無形」の神髓と言えるものであります。

 陰陽は巡り、五行は相生相剋し、季節は流転し、昼間の時間は季節によって変動します。月の満ち欠けも同様です。

 そうした自然のことわりにならい、常に「無形」「変化」を追究することこそが、戦いには大事なのだ、と言うことができましょう。

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