7.「孫子」第三章・謀攻篇/2

 将軍、軍人というのは、あくまで国のサポートです。メインではありません。

 そして君主(文官)との連携が、国家の趨勢を決めます。

 この連携が強いと、国家は強いです。

 一方でお互いに隔絶したものがあると、国家は必ず弱体化します。


 連携で重要なのは、「(軍人も君主も)知らないことには口を出さない」ことです。

 こと、軍関係に関しては、先に始まる外交や戦略の(作戦室での)検討が済んだら、あと軍人に委せるべきです。


 一度現場に出せば、あとは現場に委せろというのが軍事の鉄則です。

 現場の苦労を知らないのに、敵を倒せ相手を殲滅しろみたいな進軍を煽るとか、勝てる状況をせっかく整えたのに、自分かわいさで退却を奨めるのは、「軍隊の足を引っ張る」と言うのです。こうなると、軍隊は臨機応変には動けなくなります。下手な進退への言及は避けるのが無難です。


 そして、現場の、実際の戦力をろくに知らないのに、軍隊のあり方に口を出す。特に、将軍より偉い君主(文官)がこれを行うと、「俺たちはいったいどっちに従えばいいんだ」みたいな迷いを生じさせます。

 さらに、戦争の機微も知らないのに、こうすれば良いのではないか、ああすれば勝てるのではないか、みたいな横やりを入れる。こうすると、「所詮上の人間は現場の自分たちを信用してないんだな」と、国家のために戦うことに疑いを持つようになります。

 疑いを持ったら最後、たとえ敵が攻めてきたとしても本気で戦う者はいなくなるでしょう。現場の攪乱ですね。こうなると、どうやっても勝利を得ることは難しくなります。

 「軍を乱し勝利を逃す」というのは、こういう状況を言います。

 自分の権威や自己満足のために、あえて手中にある勝利を逃すほどの愚はありません。


◇◇◇


 何が勝利を呼び込むか、は、はっきり分からなくても、こういう状況であれば勝利は来やすい、というのは、パターン化されています。そのパターンを知っていれば、だいたい勝利できる条件というものを知ることができます。


 まず、戦うべきところと戦ってはいけないところをはっきり区別できる人は、一応勝てます。

 そして、大軍の時と小勢の時の戦い方を間違えなければ、ほぼ勝てます。

 さらに、大義名分を持って、国民と軍隊がうまく連携していれば、もっと勝てます。

 加えて、補給や兵站、あるいはそなえを万全にしていれば、かなり勝てます。

 最後に、現場の将軍が(客観的基準に照らしても)充分有能で、君主(文官)が余計な口出しをしなければ、パーフェクトです。

 このパターンを知ることが、大事です。


 孫子はこのパターンを知悉して、敵情と自己評価を比較することの大事さを説いています。あの有名なフレーズ、「敵を知り相手を知れば、百戦危うからず」とは、ここから来ています。

 具体的には、「故に曰く、彼を知り己を知れば、百戦して殆(あや)うからず。彼を知らずして己を知れば、一勝一負す。彼を知らず己を知らざれば、戦うごとに必ず殆(あや)うし」というのが、原文(読み下し文)にあるフルフレーズです。


 すなわち。

 敵情を充分に把握の上、自分が(上記のパターンに照らして)どうやれば上手に戦えるかを知悉している。その時、どんなに戦っても勝利は得やすいですし、最悪でも決定的な敗北というのはほぼないと言ってもいいでしょう。

 一応戦う時のパターンは知っていても、敵情の把握を怠れば、勝つか負けるか、どっちにしてもはっきりとしたことは言えません。

 己の戦うべきパターンを全く知らず、しかも敵を侮って「大丈夫、勝てる勝てる」みたいな慢心の状況で戦えば、一言で言えば「ダメ」です。「アカン状態」とも言えます。勝利をつかむことも、軍を保全して逃走することもままなりません。

 ですから、己と敵、両方の情報と、勝てるパターンへの適用と、そして勝利条件を過たない、こうしたことが肝要になっていきます。

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