pray



国保再加入には

資格喪失証明書が必須らしい

この失敗は己のセコさ

がもたらしたものだった


その失敗についての

もろもろを書くことが

この短いテクストの

キモであるはずなのだが

面倒なので書かない


代わりといってはなんだが

ちょうどある人物に似た人を

さっき見かけたので

その人の話をしよう


彼は東京の

三流大学を卒業し

田舎に帰り働いていた


子どもの時分

みんなに

デブでよろよろのハンス

と呼ばれていた通り

まさしくデブでよろよろの

ハンスと成り果てていた彼


なぜまたこてこての

日本人であるハンスが

ハンスなどと西洋人みたいな

名で呼ばれていたかというと

たしか実にくだらない

連想ゲームから

来ていたはずだった


それを本人から

直接聞かされたのだから

まず間違いはないが

肝心なその連想の連なりを

まったく憶えていない


きっと記憶しておくほどの

ものではなかったからだろう


それは

トマト→赤い→猿の顔→おじいちゃん

こんな感じの

連想ゲームにすぎない


そしてその連想を

いくつか繰り返した結果

ハンスという固有名詞が

出てきたところで

なぜか

落ち着いてしまったのだ


ハンスからさらに

ジャンプだか

トランスはしなかったらしい


ハンスというのが

収まりがよかったのか

なんだったのか


ただなぜまた

ガリガリのハンスが

デブでよろよろのハンスなどと

呼ばれていたのか


つまりそれは

ハンスの未来を

言い当てていたわけで

なにやら恐ろしい気も

するのだった


ハンスは

つい最近まで

東京の中目黒で

独り暮らしをしていた


ある日

サンプルとして

ポストに投函されていた

海事新聞に


羊のように

大人しい者ほど

実は舐めたらいけない

みたいなことが

書いてあるのを見つけた


日本で唯一

県庁に放火して

全焼させたという事件が

あったこともはじめて知った


馬鹿につけるクスリはない

というがもっと日本人は

怒っていいのではないか


理不尽な思いをしているのに

借りてきた猫のように

押し黙っているなんて

アホな奴らを

図に乗らせるだけだ


人間なめられたら

おしまいなんだよね

そういうのがハンスの

口癖だったことを

思い出した


そんなハンスの夢は

なんだったのか

聞きそびれてしまったが


彼に教えてもらった

忘れられない

言葉がある


人生において

死ぬほど辛いときが

誰しもあるが


そんなときには

絶望を

見つめてはならない


光を求めて

決して

希望をすてるな


そんな言葉だった

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