燃ゆる燐、春宵の薨

マルドロールちゃん

一章 私窩子

第1話

 れは如何いかな目も見えず、如何な口も言えず、如何な思考も達せぬ、万物に先立つ大いなる光であった。其れは處女おとめとも丈夫じょうふともつかぬ美をそなえ、すべてを照明する永遠であった。一切の無の中にあって、其れはまず自らについての思考を始めた。其の自己思惟から母胎者メトロパトゥルが生じた。母胎者メトロパトゥルが其れに求め、第一の認識、不滅性、永遠の生命、真理が生まれた。彼らの対として独り子アウトゲネス、知恵、意志、言葉が生まれた。不老男女おめの対をなした天使アイオーン達がついには三〇を数え、超世界プレローマに満ち満ちた。天使アイオーン達の末娘たる叡智ソフィアは、有りと有る認識への欲に身を焦がし、畏れ多くも至高者なる其れを一目見んと欲した。叡智ソフィアは其の美に照明され、其の像を思惟することによってひとりでに子を孕むも、母胎者メトロパトゥルの激怒を買った。叡智ソフィア超世界プレローマより追放され、嘆き悲しみのうちに錯誤神サクラスを産み落とした。哀れんだ独り子アウトゲネス叡智ソフィアを帰昇させ、錯誤神サクラス経綸けいりんの地に一人残された。錯誤神サクラス超世界プレローマ天使アイオーン達の存在に無知のまま、経綸界オイコノミア贋天使アルコーンと人間を創造した。


             『聖書ケノボスキオン』所収「黙示譚アポクリュフォン」より

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