第7話 アンドロイド用装着型戦闘システム

 カティアが店を手伝うようになってから数日が経ち、以前よりも売り上げが良くなっていた。それはカティアの呼び込みが功を奏したためで、コノエ・エンタープライズの看板娘として順調に成長しているようだ。

 一方のマリカも店に出る機会を増やして接客にも従事するようになり、カティアの存在が影響を与え始めたのは確かなことである。


「おっすおっす、ただいま~」


 マリカが店番をしている中、アオナが外の仕事から帰って来た。アオナは学者として学校での臨時講師なども務めていて、そうした副収入も生活していくうえでは大切なものなのだ。


「おかえりお姉ちゃん。早かったね?」


「それがさ、マリカちゃんにご報告があって急いで帰ってきたんだよ」


「いよいよ変態性が世間にバレて仕事をクビになったとか?」


「違うわい! 仕事に関することではあるけど」


 仕事用鞄を自室に運んで着替えたあと、アオナはラフな服に着替えて店に出てくる。


「なんと! マリカちゃんのためにお仕事を受注してきたのです!」


「えっ? どんな?」


「マリカちゃんとカティアちゃんが街の外に出ている時に魔物の襲撃があってね、その時に西灯台が損傷しちゃったんだって。それの修復作業を役所の人にお願いされたんだ」


「灯台か・・・・・・」


 フリーデブルクの周囲には四つの大きな灯台が建っている。それらは東西南北に配置されて、街の外を見張り魔物が接近していないか警戒しているのだ。


「あまり大きな損傷だとリペアスキルでも直すのは難しいけど・・・・・・」


「最上階周辺がダメージを受けたらしくて、そこにある篝火(かがりび)台さえ直ればオーケーだって言ってたよ。篝火台は馬車くらいのサイズだから大丈夫だよね?」


「それなら多少時間がかかる程度かな。で、いつ行けばいいの?」


「明日の朝、西門に来てってさ。今日はもう休んでいいよ。ウチが店番するから」


「了解」


 マリカはカウンター内の椅子から立ち上がってアオナと交代する。そして自室のある二階に上がろうとしたがクルッと姉のほうに振り返り、照れくさそうにしながら口を開く。


「ありがとう。仕事取ってきてくれて」


「ふへへへへ。ちょっとはウチのこと見直した?」


「少しだけね」


「結構結構! これで姉としての威厳も保てるというのもですな、わっはっは!」


 快活に笑う姉につられてマリカも頬を緩める。久しぶりに頼りになる姉を見れたことも嬉しかったのだ。


「ささ、カティアちゃんも休みな。明日はマリカちゃんの補佐を頼むよ」


「はい、かしこまりました!」


 玄関から戻ったカティアもマリカの後を追って二階に上がっていき、そんな二人を見送りながらアオナは姉としての顔つきで優しく微笑むのであった。






「マリカ様、明日のお仕事頑張りましょう!」


 カティアは作業中のマリカの隣に立って拳を天井に向かって突き上げる。明日の主役はマリカであるが、傍で主を鼓舞するのがメイドの役目だとカティアも気合を入れているらしい。


「うん。灯台はこの街にとって重要な存在だから真面目にやらないと」


「そんなに大切なモノなのですか?」


「魔物が街に接近した時に篝火台に火を点けて知らせてくれるんだよ。そうすれば街に侵入される前に魔導士による防衛線を構築できるからね」


「なるほど警報としての役目があるのですね」


 古来より見張り台の設置は拠点防衛の要の一つである。灯台はその見張り台としての役目を持っていて、篝火台が破壊されて機能していない現状は危険なのだ。


「専門の建築屋に頼めば確実だろうけど、それだと再建に長い時間がかかる。だからリペアスキルで篝火台だけでも直しておきたいんだろうね」


 リペアスキルはこういう時に重宝されるし、今回の仕事は人の役に立ちたいという理念に合致したものだ。

 マリカは責任感を感じながらも、ふぅっと息をついて手元の作業を終わらせた。


「修復完了っと・・・カティア、これを装備してみて」


 先ほどからマリカがリペアスキルで直していたのは大きな武装だ。ランドセルのような形状をしたバックパックで、その右側には一門の砲塔が接続されている物騒なものである。これをカティアに背負わせようとしているのだ。


「はい。背中のアタッチメントに接続可能ですので、今メイド服を脱ぎますね」


 メイド服の上だけ脱いで半裸となるカティア。アンドロイドの彼女には羞恥心は無いようでマリカの視線にも全く動じていない。


「下着も着けておいたほうがいいんじゃない?」


「下着、ですか?」


「てか、もしかして下も履いていないの?」


「スカートの下ですか? それなら装着していません」


「ノーパンか・・・・・・」


 これは人間的な感覚の問題で、カティアは理解できずに頭にクエスチョンマークを浮かべて首を傾げていた。


「ほら、胸のカタチが崩れちゃうしさ。カティアもその・・・結構大きいから」


 人型アンドロイドをどこまで人間の容姿に近づけるのかは永遠のテーマだろう。少なくともカティアは人そのものの姿だし、豊かな胸部はマリカと同じくらいのサイズであった。


「しかし綺麗な肌だ・・・・・・」


 マリカが指を伸ばしてカティアの肌を軽く撫で上げる。するとカティアはビクンと体を跳ねさせ、くすぐったそうに笑い声をあげた。


「うひゃひゃ! くすぐったいですマリカ様」


「えっ、そんな感覚があるの? フェンヴォルフに噛まれた時は痛くなさそうだったけど・・・?」


「あの時はダメージを受けることが想定されたので感覚カットをしていたのですよ。通常時は人間のように痛覚などの感覚を感じることができます」


「なーるほど。じゃあこれはどう・・・?」


 今度はカティアの首筋やお腹をくすぐってみる。彼女の反応が可愛らしく、ついイジメたくなってしまったのだ。


「あははははは! だ、だめですよぉ・・・・・・」


「と言いつつも感覚カットをしていないってことは、本当はイヤじゃないんでしょ?」


「い、イヤってわけではないです。むしろ嬉しいという気持ちになってしまって・・・・・・」


「このドМメイドめ~」


「あひゃっ! ご、ご勘弁を~!」


 などと主題から逸れてイチャつき始める二人。これはこれで息抜きになっているのかもしれない。

 それから数分経ち、ベッドの上で息も絶え絶えになっているカティアを見てハッと我に返る。呼吸をしないアンドロイドが息を切らしているのも変な状態だが、これも人間を模した機能の一つなのだろう。


「大丈夫、カティア?」


「は、はい。何故か体機能がオールグリーンになって疲労していた箇所も回復しました」


「なんで・・・?」

 

 アンドロイドの体は謎が多いようだ。しかしそれを解明できるほどの知識は無いので、異常が起きなかったのならいいかとマリカは一安心する。


「まあそれはともかく・・・後で私の下着を分けてあげるからね」


「マ、マリカ様のを頂けるのですか!?」


「う、うん。お姉ちゃんのだと少しサイズが小さいだろうからね」


 何故か興奮気味にしているカティアの圧に押されつつ、マリカは修復したばかりの装備をカティアの背中に近づける。それに呼応するようにカティアの肩甲骨の間にある皮膚がカパッと開き、内部から正方形のアタッチメントが現れた。


「認証、アンドロイド用装着型戦闘システム。キャノンパック、接続完了です」


「よし、見立て通りにピッタリと合ったね」


 これはアンドロイド用に開発されたオプションパックであり、カティアとも規格が一致したので使うことができるようだ。


「この砲塔が魔道キャノンなんだね?」


「はい。魔力を圧縮して撃ち出す魔道兵器で、杖よりも高威力の魔弾を発射可能としています。なので遠距離からでも支援攻撃が可能ですよ」


「心強いよ。でも重たいから機動力は落ちちゃうね」


「約三十パーセント減となります。近接戦は難しいと思われますね」


 あくまで後方支援専用装備のようだ。しかし強力な砲撃を期待できるので、マリカが前衛を務めてカティアに仕留めてもらえばいい。とはいえカティアが焦って誤射しないことを祈る必要もあるだろうが。


「明日はこの装備も持っていこう。灯台は街からそれほど離れてはいないけど、一応は防壁の外に出るわけだからね。もしかしたら魔物に襲われる可能性があるからさ」


「備えあれば安心ですね。わたしとしても、マリカ様をお守りするための武器が多いほうがいいですから」


「ふふ、気負いすぎないでね。私はそこそこ戦える魔導士だと自負しているし、お互いに助け合いながら頑張ろ」


「はい!」


 装備を修復し終わったので、マリカは仕事に備えて就寝することにした。寝坊しそうになってもカティアが起こしてくれるだろうが、頼り切ってしまうのも申し訳ないという気持ちがあるのだ。いくらカティアがメイドタイプのアンドロイドだとはいえ都合のいい便利屋としたくない。


「ではマリカ様、良い夢を・・・・・・」


「うん、おやすみ」


 カティアの手に自らの手を重ね、二人の視線は優しく交差していた。



   -続く-














 

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