第23話 影の大隊

 挑発する響子さんに、夢想は満面の笑みを浮かべた、

「では、遠慮なくっ!」

 夢想が軍刀を少し引き抜き、鞘に戻す。カシャーンと音がすると突風が吹き上げる。

 ブン! と空中を切った音がすると、響子さんがいたところに深々と軍刀が突き刺さっていた。

 響子さんは間一髪それを避ける。

 突き刺さった軍刀はしばらくすると、解けるように消えた。

「早い……!」

「そら、踊れ! 踊れ!」

 また軍刀を鞘に戻し、カシャーンと三回音がする。

 すぐに突風が吹き上げ、地面を砕く。

 響子さんは何とか避けるが、衝撃刃で頬を切り、血が出る。

「響子さん!」

 俺は助けにいこうとしたが、神坂さんに防がれる。

「どいてください!」

 俺は神坂さんの手をふりほどこうとするが、神坂さんはどかそうとしない。

「奏多くん……わたくし達が行っても、足手まといになるだけですわ。響子ちゃんを信じましょ? 響子ちゃんなら必ず勝つ」

「神坂、さん……」

 じっとした目で俺を見る神坂さん。俺はそれに従うしかなかった。

「そらそらそら!」

 カシャーン、カシャーン、カシャーンとまた音がする。

 すぐに突風が吹き、響子さん目掛けて軍刀が飛んでくる。

 響子さんはなんとか回避しようとするも、軍刀の一本が足にささる。

「ぐっ!」

「響子さん!」

 息があがり、衣服がボロボロになった響子さん。

 顔はきつそうだが、煙草を咥え視線だけは夢想へ向けている。

「そろそろ頃合いかのう。最後は儂がいこう!」

 夢想はまたカシャーンと4回鳴らし、今度は鞘を抜き、自ら響子さんへ突撃した。

 響子さんがいた辺りは粉塵でなにも見えない。

 そこに夢想が突っ込むと、衝撃で粉塵が晴れる。

 そこには、床にささる四本の軍刀。そしてそれの中心には笑みを浮かべる響子さんがいた。

「『全身全霊』!」

 すると、響子さんは箱の煙草を全て咥え、火を着け、それを全て空へばらまいた。

 煙草はまるで魔法陣を作るように円状に散らばった。

 すると、そこから光線が走り、夢想へ放たれた。

「むむ! これは……封印系魔術かのう!」

 魔法陣に囚われた夢想は、軍刀を構えたまま動けなくなる。

 響子さんを見ると、背中に六っ本の腕が生えていた。そう響子さんお得意の『六本腕』だ。

「貴様、魔術が使えないと図ったのう」

「図ってませんよ。実際、私は魔術を使えなかった。でも、貴方いいましたよね? 特殊な魔術を使わせていただきました」

 そういうと響子さんの『六本腕』は夢想を突き穿つため狙いを定める。

「これはこれは。旗色が悪いのお」

 命の危機にあるのに余裕な夢想に嫌な予感がする。すると、響子さんの後ろに……。

「響子さん、後ろ!」

「!?」

 響子さんは一つの腕でそれをはじき返す。カキーンと金属が響く音がした。

 気がつくと響子さんは軍刀や銃剣をもった兵士に囲まれていた。どれも顔に表情がなく、まるで幽霊のようだ。

「これは……」

「さて、『影の大隊』諸君! 目の前の敵を殲滅せよ!」

 号令とともに兵士が突撃を開始する。

 響子さんは『六本腕』でそれらを捌いていくが、数が多い。

 兵士は切ると影のように消える。しかし、すぐにまた蘇る。

 それらが束になり四方八方から襲う。

「ほほほっ。我が大隊からは逃げられぬまい」

 煙草は粉々にされ、魔法陣が崩壊。封印が解け、夢想が自由を取り戻す。

「さて、そろそろ終わりにするかのう」

 夢想は軍刀を構える。

 それを見て違和感を感じる。

 どうして、夢想はわざわざ直接攻撃してくるのだろう?

 魔術に任せて遠距で攻撃すればいいのに。

 もしかして……実体がない?

「響子さん! そいつらは幻です! おそらく幻術かなにかです!」

「……なるほどね」

 響子さんは『六本腕』で防ぐのをやめる。すると、兵士たちの軍刀は響子さんに突き刺さるが、そのまま消えてしまった。

 そこに夢想が突っ込んでくる。

「なにい! 儂の幻術を見破ったじゃと!?」

 慌てて方向を変えようとするがもう遅い。

 夢想は六本の怪物の口に飛び込んでしまったのだから。

「チェックメイト!」

 次の瞬間、六本の鋭い刃が夢想に突き刺さった。

 スパッツと軽い音だった。

「ふふ、見事」

 夢想は笑うと、粉となり消えていった……。

 それを見届けた響子さんはふらりとその場で倒れた。

「響子さん!」

 俺は慌てて駆け寄った。

「大丈夫。少し眩暈がしただけ……」

 響子さんは足のケガ以外は大したことはなさそうだ。

「歩けますか? 僕が補助しますよ」

 俺は響子さんの腕を肩に回して支えた。

「わ、わたくしも……!」

 放心状態だった神坂さんが反対側で支える。

「それにしても、よく勝てましたね」

「幻術は、相手が『本物』と認識することで本物になる……。逆にそれに気が付けばただの影。ありがとう奏多くん……」

「いえ、そんな……」

「すごいですわよ。わたくしは……ただ見ているしかできませんでしたもの」

 そう言った神坂さんは下を向いた。

「それにしてもすいません。二人の勝負に水を差してしまって……」

「大丈夫よ。……私の実力不足だったわ」

「それにしても、あの『全身全霊』! 凄いじゃないですか! あれさえあれば、もう敵なしですよ!」

 すると、響子さんはため息をついた。

「そうでもないのよ……。あれ、使えるの一年に一回ぐらいなのよ」

「え?」

「凄い高級で、特別な煙草を使うのだけど。それが手に入るのが一年に一回……」

「つまり、もう今年は使えない、と。……まだ一月なのに」

「……そういうこと」

 どうやら疲労してみえる理由にはそれもありそうだ。

 響子さんは、夢想が消えた場所を睨んだ。

「ーーーーー」

 小さくてなにを言っているのかわからなかったが、それは「殺す」と言っているようだった。

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