第21話 黒幕

その後、事情聴取を受けた俺たち。事情聴取は館の部屋で行われた。概ねすでにわかっていることばかりの質問だったが、唯一、外の結界についてはわからなかった。

「結構、何だったのでしょうね? 結界」

 俺と神坂さんは談話室で、響子さんを待っていた。

「さあ? でも、解決してよかったですわ」

「そう、ですね……」

 俺は大波と高田さんを頭に浮かべていた。

 命の恩人だと知らずに殺そうとした高田さん。家族を救ってくれたことに気が付かず殺してしまった大波。

 こういうのを何ていうのだろう? すれ違い……? 違うな、勘違いだろうか。上手く言葉にできない。ただ……歯車が上手く回っていれば、こんなことにはならずに、みんな幸せに過ごせたのではないか。ただ、そう思うばかりだ。

「高田さん……大丈夫かしら?」

 神坂さんは紅茶に一口つけるとそう聞いた。

 俺は先ほどのことを思い返した。



 大波が連れていかれたあの後、泣いている高田さんに声をかけた。

「高田さん……」

「……ごめんなさい」

「え?」

「みっともないとこ、見せて」

「いいえ、そんな……」

 高田さんはうずくまっている。

「ダメだよね? マジシャンはみんなを笑顔にしないといけないのに……」

「いえ。泣きたいときに、泣けばいいと思いますよ。我慢なんか必要ない」

「奏多くん……。ありがとう。でも、もう大丈夫」

 涙を拭うと、ぐちょぐちょになった顔で笑う高田さん。それはただの痩せ我慢ではなく、心から前へ進もうとする意思のように感じた。

「ま、麻子!」

「どうしたの? 栄太くん?」

 栄太さんは顔を赤めながめ、もじもじしたが深呼吸をすると大きな声をだした。

「ぼく、頑張るよ!」

「え……?」

「ぼくは父さんの跡を継ぐ、継いで新しい誰もが幸せで平等な魔術社会にする! だから、麻子も、頑張って!」

「栄太くん……! よし! 私も手品で世界中の人を笑顔にする! 負けないからねえ!」

 俺と高田さん、そして栄太さんはそう言って笑いあった。



 その出来事を思い出し、俺は一人ニヤリとした。 

「……大丈夫ですよ。高田さんなら」

「そうだといいですわね……」

 神坂さんが紅茶をすすると、談話室の扉が開いた。

「お待たせ」

「響子さん! 大丈夫ですか!?」

響子さんはくたびれた様子で服から煙草を取り出し、いつものように指で火を起こそうとするが、当然魔術は使えないので諦めてポケットにしまった。

「まあ、なんとかね」

「響子、本当に大丈夫?」

「ええ。特に暴行とかされたわけじゃないし大丈夫よ……それよりも」

 突然、俺の前に来る響子さん。俺はたじろぐ。

「な、なんですか? 急に……」

 すると、頭に柔らかいものが当たった。それは響子さんの手だった。

「ありがとう奏多くん。私との約束を守ってくれて」

 ガシガシと乱暴に撫でる響子さん。俺は少し照れくさくなってしまった。

「別に……弟子ですからっ!」

「可愛げがないなあ~!」

「痛い! 痛いです!」

「そうよ。奏多くんの大活躍だったのですわ。もっと誇ってもよくってよ」

「神坂さんまで……恥ずかしいからよしてくださいよお!」

 しばらく、俺を撫でる響子さんの手と格闘して、ようやく手が引っ込んだ。俺は何だか疲れて椅子に深々と座り込む。

「それにしても、無事解決してよかったです。……道元さんは気の毒でしたけど」

「いえ、まだよ」

「響子さん……?」

 響子さんはドアの方へ向かい、俺たちにこういった。

「どうして私たちをこの世界に閉じ込められたと思う?」

 俺は顎に手を置いて考えるが……。

「いや……わからない、ですけど」

「私を陥れるためよ」

「!? それはどういう……」

「この状況を作りたかったのよ」

 響子さんは自分の髪の毛を撫でた。

「このまま魔局がくれば、物理証拠で大波くんが捕まったでしょう。しかし、魔局が来れないようにすれば、私を犯人にでき、しかも、証拠を隠滅できる……そのための結界の封鎖よ」

「そんなことを一体誰が……」

 大波とは考えにくい。こんなこと単独では不可能だ。じゃあ、その協力者は……。

「さあ、この事件の真相を暴くわよ」

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