第17話 密談

「えっと? またなにか御用ですか?」

 談話室の一室。秘密の話があると横山さんと高田さんには遠慮してもらった。

 高田さんを引き離すのが大変だった……。

「なんで!? 三人でお話ズルい! 私もし~たい!」

 と暴れる高田さんを落ち着かせ、ようやく話に入れた。従に十二時すぎだった……。

「実はですね、栄太さん。僕たちに嘘をついてませんか?」

 すると、栄太さんの顔がみるみる青くなった。

「そ、そんな馬鹿な、こと……」

 明らかに動揺を見せる栄太さん。対面して座る俺はさっき見たことを話すことにした。

「昨日、栄太さんは大広間にいたのではなく、道元さんの部屋の前の廊下にいたのではありませんか」

「!? ……」

 栄太さんは図星だと言わんばかりに目をギョロッとさせて、下に俯いてしまった。俺は栄太さんの顔を覗き込む。

「栄太さん、お願いします。何か知っていたら……教えてください」

「で、でも……」

 俺は頭を下げた。

「あなたを犯人だとは思ってません。少しでも、少しでも情報を教えてください。僕は……響子さんを助けたいんです……。この通り」

 俺は何度も頭を下げた。それを栄太さんは黙って見詰めていた。

「……はあ。僕は甘いなあ。わかったよ。本当のことを話すよ。あの時、僕が何をしていたのか」

「ありがとうございます……」

 俺は座り直して話を聞く態勢になる。

「実は……僕は昨日、父さんに用事があって、部屋にむかっていたんだ」

「それは何時くらいのできごとですの?」

 神坂さんが質問する。

「昨日の十時五十分だよ……犯行時刻の」

「……続けてください」

 俺が話の続きを促す。

「僕が父さんの部屋に着くと、朱音さんが入って行くところだった。赤いドレスの」

 しかし、栄太さんも目撃したとなると……。

「でも、変だなと思ったんです」

「変?」

「だって、僕。その一分前に前の女子トイレ同じ女性が入ったのを見たんです……。最初は誰かと思ったのですけど、今思うと、髪の長い女性は朱音さんしかいなかったので、朱音さんかなあ? と」

「え、それって……」

 確か、響子さんはトイレに行ったと言っていた。これって……。

「立派なアリバイじゃねえか! おい……ですわ」

 興奮したのか、姉御モードになる神坂さん。それを見て栄太さんは顔をあんぐりと開けた。

「でも、おかしいですね。どうして響子さんが二人も……」

「それは、多分、麻子だと思う……」

 どうしてそこで高田さんの名前が出るんだ?

「どういうことですの?」

「麻子は一流のマジシャンだ。変装なんてお手の物、だと思う」

「確かにそうですけど、そもそもアリバイはあなたが……」

「違うんだ。僕は……昨日、麻子と、会ってない……」

「え」

 まるで頭を鈍器で殴られたような衝撃が走る。

「突然、朝、『昨日は私といたことにして』て頼まれたんだ」

「なんでそんなこと! 明らかに怪しいじゃないですか! どうして言ってくんなかったんですか! そうそれば響子さんはーー」

「仕方ないだろ!」

 栄太さんが突然立ち上がる。

「しょうがないじゃないか! 僕だって! ……すいません」

 そう言って謝ると、栄太さんは座った。

「麻子は、麻子は僕にとって大切な人、なんです。引っ込み思案でヘタレな僕に寄り添ってくれるのは……彼女しかいないんだ……」

 俯いた栄太さんの顔からポロポロと涙を流す。

「つまり、栄太さんは高田さんを庇うために嘘をついた、と」

「はい……そういう、ことに、なります……」

「でも、どうして私たちに話を?」

 神坂さんの疑問に栄太さんは涙を拭う。

「麻子に秘密にしてと言われてからずっと考えていたんです。彼女が大事だからて、他の人の人生を潰すということを。彼女の友達であるならば、罪を償わせるのが勤めなのではないかと。それに、あまり父を殺されたことを怒ってないんです」

「……それはどうして?」

 栄太さんは気まずそうによそを見た。

「僕はいつもいつも、『父みたいに立派になれ』という重圧をかけられてきた……。だけど、父のように慣れっこない! だから、僕は革新派につくことに決めました。父とは違う道を、僕らしい僕の道を歩くために……」

「そういうこと、だったんですね……」

「でも、犯罪は犯罪です。僕が麻子の友達ならば……友達だからこそ、彼女と共に罪は償うべきだと……思います」

 うなだれる栄太さんを見て俺はそんな陳腐な事しか言えなかった。

 でも、凄い覚悟だということは言えた。

「栄太さん。高田さんに話を聞きにいきましょう。真実を」

「……はい」

 栄太さんは小さくうなづいた。でもそれは誰よりも力強いものだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る