第7話 炎と水

「う、撃てえええ!」

 田中の周りにいた男たちが銃を連射する。

 その弾丸は響子さんを穿つため、発射される。

 だが、弾は消えてしまう。

 正確に言えば蛇が食べているのだ。

 炎の蛇は飛んできた弾丸をブラックホールのように、残さず平らげてしまう。

 弾が尽き、リロードをしようとする男たちめがけて、蛇が飛ぶ。

 男たちは蛇に食われ、そのまま倒れるていく。

 不思議と死んだ感じではない。

「安心して。殺しはしない」

 そして、その場に立っているのは、響子さんと田中だけになった。

「ハハハ! なんだそりゃ。そんなのありかよ!」

 この状況でも余裕な田中に嫌な予感を感じる。 そしてその予感は的中する。

「! 響子さん! 避けて!」

「!?」

 響子さんが横に避けると、ついさっきまで彼女がいた所に槍が深々と刺さっていた。

 しかしもそれは、ただの槍じゃない。 水でできた槍なのだ。

「ちっ。かわされたか。まあいい」

「……お前、魔術師」

「魔術師? そんなメルヘンなもんじゃねーよ。俺は兵器として使わせてもらっているだけだよ」

 田中の周りに水が集まる。見ると、先ほど隠れたミネラルウォーターのボトルに穴が開けられ、そこから水を供給しているようだ。

「俺、嬉しいぜ。お前、魔術師なんだろ? まさかあいつ以外の魔術師を見れるなんて驚いたぜ」

「……」

 沈黙する響子さん相手に、田中は饒舌に喋る。

「俺さ、昔から本気で殺し合いがしてみたかったんだよ。だけど、普通の人間はつまらなくて、つまらなくて……。俺を喜ばせるぐらいにしかならなかったんだよ。だからさ、お前、俺を気持ちよくしてくれよ?」

「……」

「確か、あいつの話では『火』に『水』は弱いんだよな? お前のそれ、『火』だろ?」

「正確には『炎』だ」

「そんなこと気にすんなよ! まあ、つまりは俺が有利なんだろ? なあ?」

 ズドーン! と衝撃が走る。

 あたりに煙と水しぶきが舞う。

 さっきまで、響子さんがいた場所はクレーターが広がり、そこに水の槍が深々と突き刺さっている。

「……いけ」

 それを回避した響子さんが炎の蛇を飛ばし、田中を食らおうとする。

 だが、瞬時に槍が盾に変化し、田中を守る。

「次はこっちの番だ」

「!?」

 突如、盾はムチに代わり、響子さんの足に絡まる。

 そして、宙に上げられた響子さんは、投げ飛ばされる。

 ドーン!

 響子さんは工場の壁を突き抜け、外に飛ばされる。

「響子さん!」

「へへへ! もらった!」

 田中は、鞭を槍に変え、それを手に掴み、響子さんを追う。

 ドガーンと、音が鳴り、工場の壁が吹き飛ばされる。

「どうした! 魔術師の癖に弱えーな!」

「くっ!」

 攻防が続く。

 だが、響子さんが劣勢なのは目に見てわかった。

 田中の槍を蛇が相打ちで殺し、また新しい槍を蛇で消す……。

 響子さんはどんどん後退していく。

 まずい。このままじゃまずい。

 日はもうすぐ傾き、消えそうなぐらい弱い。

 俺は時計を確認する。

 時刻は十八時二十八分。

 そこで、あの時の響子さんの言葉を思い出す。

 そっか。それで響子さんは……。

 俺は立ち上がり、腕で顔を守るように田中に突っ込んだ。

「うおおおおお!」

 それは、万歳突撃に似ていた。

「てめえは下がってろ!」

 だが、田中に接触する前に、水の盾で跳ね返らせる。

「ぐがっ……!」

 壁に強くぶつかったかのような衝撃が走り、 俺は一瞬にして元居た場所まで飛ばされた。

 だが、不思議と痛みはなかった。

 その隙を響子さんは見逃さなかった。

 響子さんは田中に二匹の炎の蛇を飛ばす。

 田中はそれを槍で切ろうするが、二匹の蛇が両端を抑え、槍を固定する。

「やれ……」

 響子さんの号令とともに、三匹目の蛇が響子さんから飛び出し、田中の心臓めがけて飛びつく。

そして……。

 ぐさり。と刺さる音が聞こえた。

「ぐっはぁ!」

 口から血を流す音が聞こえた。

 胸を槍が貫いたのだ。

 正確に言うと、槍ではない。

 確かに響子さんは槍の両部分を抑えた。

 だが、槍の柄の部分から心臓を貫くため、鋭い刃が伸びていたのだ。

 そう、血を吐いたのは響子さんだった。

「え……」

 辺りに血が飛び散る。

 それが田中の全身に降り注ぐ。

 足に、腕に、体に、そして笑顔に。

「はっはは……」

「ハハハハハッ!」

「殺したぁ! 俺、魔術師を殺したぞ!」

 田中の笑い声が響く。

 俺はそれを聞きたくなくて耳を抑えようとするが、縄に絞められ、塞ぐことができない。

 響子さんは、ぐったりと首を傾けている。 そこに力はない。

 体もびろーんと伸び、とても生気を感じない。

「あ、ああっ……」

 俺はただただ、その現実が受け入れれなかった。

「響子さん・・・・・・。響子さあああああああああああああああああん!」

 俺はただ叫んだ。

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