第24記:夜食

 本日は快晴に恵まれた。絶好の行楽(観光)日和だが、今日の俺に外出や遠征の意志はなかった。金子の節約も兼ねて、篭城を決め込むつもりであった。外遊びも楽しいが、中遊びも面白い。そのための準備も万端整っている。食料と飲料水も、今日一日ぐらいなら持つだろう。遊びを始める前に、俺は部屋の空気を入れ替えた。

 ベランダの物干し台に脱水衣類(昨日の夕方に洗ったもの)を吊るし、空いた場所に寝具を干した。その後、抽出式のコーヒーを淹れた。少々手間がかかるが、幸いなことに今日は時間に余裕がある。平日にできないことができるのが、篭城の利点のひとつだ。


 コーヒーを飲みながら「ビーフシチューパン」とやらを食べる。最近は料理(の楽しみ)から遠ざかっているが、若い頃、ビーフシチュー作りに挑戦したことがある。初めは指南書に従って調理を進めていたが、途中から面倒になり、気がついたら、完全なる自己流に変化していた。熱々のやつを大きめのスープ皿にたっぷりと盛りつけ、葡萄酒(赤)を呑みながら食べた。意外にうまくできていた。もっとも「俺にしては」という但し書き付きだが……。


 自己流と云えば「我流ナポリタン」もよく作った。これも簡単である。あらかじめ茹でておいた麺を冷蔵庫から取り出し、あり合わせの材料といっしょに炒めるだけ。調味料は缶詰のミートソースとケチャップだ。ソースが足りない場合は、ケチャップを多めに投入すればいい。誰にでもできる。炒めながら、もう一方のコンロを使って、小判型(形)の鉄板を温めておく。

 鉄板の上に炒めた麺をどさっと乗せ、適当に刻んだチーズをばら撒けば完成である。これが、我が夜食の定番であった。カ*プ*ー*ンよりは多少マシだろうという単純な発想であった。ちょっと贅沢をしたい夜は、鉄板の隅っこで目玉焼きを焼いたりした。


 今の俺は(ガス代の請求書が怖くて)うっかり自炊もできないという哀れな状況に置かれている。否、哀れと云うより「惨め」と云うべきか。まったく情けない話である。涙が出ます。時々、シチューやナポリタンが無性に食べたくなることがあるが、どうにもならない。〔12月5日〕


♞かつて俺も自炊をやっていた。田舎時代の話である。経緯は省くが、一軒家に一人で住んでいた。当時の俺に「ガス代が怖い」という感覚はなかった。生ゴミの処理も楽だった。家の裏に埋めていた。

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