第18記:記憶

 眼が覚めた。枕辺の時計は「朝の7時半」を示していた。眠り足りない気もするが、思い切って起きてしまう。台所に行き、湯沸かし器にミネラル水を注いだ。今日は何処にも行かない。行くつもりもない。最初から「終日篭城」と決めていた。

 熱いコーヒーを飲みながら『タスケチェス』を2局続けて指す。対戦相手は「レベル4のかすみ」である。結果は2戦2勝であった。定跡を無視したやり方が、かえって奏功したらしい。かすみの指し手にいつもの鋭さが感じられなかった。勝つにしろ、負けるにしろ、チェスは決着が早くつくのが良い。これが『森田将棋』だと、最低でも1時間はかかる。


 DSの電源を切り、愛機を起動させた。ぴよぶっくを呼び出して、編集作業に埋没した。ダサク3頁とダブン3頁、計6頁を投稿した。こんなに書くのは久し振り…いや、初の出来事ではあるまいか。

 内面で渦巻いていたものが、波濤みたいに、外部へ噴き出したのだ。編集に夢中になると、無意識的にキーボードを叩いている瞬間がある。まあ、それは良いのだが、書けば書くほど、文章が荒れてくるのが問題だ。筆力の不足と集中力の欠落である。我がことながら、あきれるしかない。


 昨夜は少々呑み過ぎたので、今夜の飲酒は中止にすることにした。俺の胃袋は化物級だが、肝臓は消化部門ほどには、強靭ではない。ウオツカの代わりに白湯でも呑(飲)むことにしよう。そんな「晩酌」もたまには悪くない。


 白湯ではないけれど、祖父(故人)の寝室には、常にガラス製の水差し(中身は湯冷まし)が用意されていた。あれは「冷水は体に良くない」という考慮の結果だったのだろうか。幼児時期の記憶が、おぼろげな再現映像として、脳裏に浮かび上がった。

 記憶のメカニズムがどうなっているのか、俺などにはわかる筈もないが、何かの弾みで「突然蘇生する」場合があることは、体験的に知っている。〔6月7日〕


♞かすみ相手に全勝したところで、何の自慢にもならない。この日は「計6頁を投稿した」らしい。当時の俺は、相当意欲的にぴよ活動に取り組んでいたのだ。禁酒の話も驚きで、近頃の俺にはないことである。

祖父は、好きな本を買ってくれたり、旅行に連れて行ってくれたりと、随分かわいがってもらった。なかなかお洒落なじいさんだった。素敵な家に住んでいた。一献、酌み交わしたかったが、その前に逝ってしまった。

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