003

 私が目を覚ましたのは、白い天井のある空間だった。

 腕に何かが刺さっている。

『神さまー』幻聴が聞こえてくる。『神―神―神―』止まらない。止まらない。


「ああ、あああああああああああ!」私は髪をぐしゃぐしゃにして叫び声をあげた。



「あ、目を覚ましました? て。落ち着いてください。さくらさん。ゆっくり呼吸をして。はいそう。リラックスリラックスー」


 さくら?

 誰それ?


「違います、私の名前はメル・アイヴィー」


 すると目の前の看護婦は困ったような顔をした。後ろにいた白衣を着た男性が残念そうに首を横に振る。


「君の名前はね、しおしまさくら、言うんだよ。年齢は一七歳」


 違う。

 けれど抵抗する気になれない。何というか私の周りには大勢の人が集まっていて、全員が、私が塩嶋さくらであることを当たり前の事実として認識しているようだった。


 この世に人間なんていないのだから。

 人間に合わせる振りなら散々トレーニングしてきた。


 私は十月から二か月間そこの閉鎖病棟で療養を続けた。


 それから数ヶ月、自称親と呼ばれる人たちに二ヶ月ほど共に暮らした。


 三月。


 私は京都に旅立った。


 どうやら、同志社大学、というところの生徒として登録されているらしかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る