ジョーカーマン JOKERMAN

宝輪 鳳空

第1話 ジョーカーマン

 一九五三年七月、そこは独裁国家クレイドルズのローウェル教会。

 巨大ギャング組織、スプンフル・ファミリーの幹部シナズ・プレアは告解の部屋にいた。

 暗く静まり返った小部屋での罪の告白。

 狂気に蝕まれた彼にとって、そこは唯一の癒しの場だった。

 やがて神父が入ってくる。

 黒い壁の向こうに座り、聖書を置く。


「……どうぞ……始めなさい」

 シナズ・プレアは先ず、昨夜の苛立ちを吐露した。

将軍ジェネラルは何もわかっちゃいねえ!」

「落ち着いて……」

「ハウルの密約のネタ流してやったのに何の報酬もよこさねえんだ!」

 荒らげた声の反響でシナズの顔の傷が疼く。

「だからまた腹癒せに一人殺っちまった。ホテルのボーイでよ、チップの額に不服なツラしやがって。ああ、殺すこたぁなかった。悪かったと思ってるよ。まあ昔の俺だったら銃をブッ放しゃそれでスッキリ解決だったが今じゃこうして悪びれる人の良さ」

 話はまだ続くその時、壁の向こうの神父が目先の小窓を素早く開けた。

「何っ?!」

 冷たいサイレンサーの銃口がシナズの額に突きつけられる。

「神父じゃねえな、てめえは!」

 息をつく間もなく、そこに弾丸が撃ち込まれた。

 ふわりと倒れてゆくシナズ・プレア。

「地獄での懺悔。俺が来るまでに済ませておけ」

 そう言って神父は静かに部屋を出て行った。



 シナズの右腕ヘイル・ヘイズはサウナの湯煙の中、刺し殺された。

 五年目の服役ファイブ・イヤーズも食堂で口から泡を吹いて死んだ。

 屈強の双子の用心棒ランブ&タンブでさえ手も足も出なかった。

 シナズ・プレアの配下百数十名は一人ずつ確実に始末された。


 計画通り僅か一週間、それは一人の男によって。

 復讐ではない。彼にとってそれは仕事だ。

 彼は超一流のスナイパー。

 ひっそりと、冷酷に忍び寄る暗殺者。

 受けた依頼は完璧にやり遂げる闇の掃除屋。

 標的を綿密に調べ上げ、地の果てまでも追い詰める――。


 〝朝靄の死神〟

 〝月光の悪魔〟

 〝暗黒街の切り札〟。


 その素性は決して明かされない。

 全てが謎に包まれている。

 運命の時、敗者は彼のカードを引く。

 死のコードネーム、それは〝JOKERMAN〟。

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