第15話 久しぶりの4人

 朝からのクラスメイト達からの謎の視線の理由が分かったので午後の授業は集中して受けることができた。昼休みに生徒会室から教室に戻った時には視線が集まったが、こればっかりは仕方ないので俺は気にしないようにしていた。人間とはすごいもので1度気にしないと決めると、その視線はすぐにあまり気にならなくなった。


 そんなわけで、午後の授業も何事もなく終える。それから、帰りのホームルームが終わって解散となったタイミングで俺は彩花に声を掛けて2人で生徒会室へと向かう。

 なぜ、生徒会室なのかと言うと校門の前に集合すると菜奈さんが一緒だと生徒会長ということもあって目立ってしまう。なので、生徒会室に集合してから人が少なくなってから行った方がいいと霧島先輩からアドバイスされていたのだ。もう、霧島先輩が生徒会長になればいいと本気で思ってしまうのはさすがに失礼だろうか?


「私、中学生の頃も合わせて生徒会室に行くのって初めてかも」


「俺はこれで3度目だな」


「うちのお姉ちゃんが本当にごめんなさい……」


「いや、気にしてないからいいよ。これでこそ菜奈さんって感じもするし」


「そう言ってもらえると本当に助かるよ。私としてはお姉ちゃんにはもう少し……ね?」


 彩花はあえて言葉にしなかったが、言いたいことな痛いほどよく分かる。俺が妹の楓が心配なように彩花も姉である菜奈さんのことが心配なのだろう。主に精神的な面において。俺はまだ年下の妹の心配だが、姉である菜奈さんの心配をしている彩花は俺より大変なのかもしれない。


 そんなことを話していると生徒会室に着いたのでいつものようにノックをすると、すぐに中から返事がある。


「どうぞ」


「「失礼します」」


「よく来たね! 妹、弟よ!」


「いや、俺は弟じゃないんで」


「もぉ! 悠くんノリが悪いよ!」


「そんなことよりもお姉ちゃん。どこに行くの?」


「本当の妹の彩花までお姉ちゃんに冷たい!?」


 菜奈さんは、ショックを受けたように床にへたり込み、顔を両手で覆って泣いたふりをし始める。この茶番はいつまで続くのだろうか? 彩花も俺と同じことを考えていたのか自然と目があって頷き合う。


「それじゃ、失礼します」


「またね、お姉ちゃん」


「ちょっと! ダメよ! 今からお姉ちゃんと遊びに行くんだから!」


 そう言って菜奈さんはすぐに泣いたふりをやめて立ち上がる。これでようやくまともに話ができそうだ。こうでもしないとあの茶番が長々と続くであろうことは今までの奈々さんを見ていてよく理解できていた。


「それで? どこに行くの?」


「そりゃもう、学校の帰りに寄り道といったらあそこしか無いでしょ!」


「「?」」


「歌って踊れるカラオケしかないでしょ!」


「いや、カラオケは歌えるだけで踊るところじゃないからね?」


 カラオケかぁ……行ったことないな。彩花はカラオケには行ったことがあるようで、別にいいけどといった感じの態度である。菜奈さんはもう行く気満々なようで既に生徒会室に置いてあったペンを持って振っている。菜奈さんはカラオケに行って歌いたいのではなく、マラカスが振りたいようだ。意味がわからない。


「あっ、悠くん!」


「なに?」


「せっかくだし楓ちゃん呼んでよ!」


「あっ、確かに。私も久しぶりに楓ちゃん会いたい!」


「まぁ、いいけど」


 そう言ってポケットからスマホを取り出して楓に彩花達とカラオケに行くけど来ないか? といった旨のメッセージを送るとすぐに返事が来た。


「楓も来るって」


「やったぁ! お姉ちゃん大勝利!」


「3年ぶりかぁ。楓ちゃんも可愛くてなってるんだろうね!」


 それから俺達は生徒会室で10分ほど話し込んだあと、生徒会室を出てカラオケ店へと向かう。楓とは現地集合ということになっている。


 学校を出て駅の近くにあるカラオケ店の前には既に楓は到着していたようで俺達を見つけた瞬間にパタパタと小走りでこちらに駆け寄ってくる。


「あっ、お兄ちゃん!」


「おう」


「久しぶり楓ちゃん!」


「菜奈お姉ちゃん?」


「そうだよ! 菜奈お姉ちゃんだよ!」


「えっ!? すっごく美人さんになってる!」


「楓ちゃんもすっごく可愛くなってるよ!」


「えへへ」


 そう言って菜奈さんと楓は抱きつきあっていた。菜奈さんにいたっては楓のほっぺたに頬擦りまでしていた。彩花は完全に出遅れたと言わんばかりに頬擦りされてる楓に話しかける。


「楓ちゃん久しぶりだね!」


「彩花お姉ちゃん!」


 そう言って楓は菜奈さんから離れて今度は彩花に抱きついていた。彩花も満更ではないようでニコニコと楓を抱き返していた。それを微笑ましそうに見ていると菜奈さんが何を勘違いしたのか俺に抱きつこうとしてくるので俺は必死に抵抗する。


「ちょっと、菜奈さん! いきなりなに!?」


「いやぁ、悠くんだけ寂しそうだなと思って!」


「俺は大丈夫だから!」


「ちょっとお姉ちゃん!」


 彩花も菜奈さんの暴走を止めることに協力してくれる。その甲斐あって俺は公衆の面前で菜奈さんに抱きつかれるということは回避したが、周りからの視線が痛いので逃げるようにカラオケ店へと入っていく。俺の後に続いて他の3人も入ってくる。


「それにしてもあれだね! 4人揃って遊ぶのも久しぶりだね!」


「3年ぶりかぁ」


「ふふ。また、こうして遊べるなんてね!」


「楓もお姉ちゃん達とまた遊べて嬉しいよ!」


 俺達はこの久しぶりに思いを馳せながらも、受付を済ませて指定された部屋へと向かって行くのだった。

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