第10話 幼馴染とのお出かけ

 今日は土曜日。高校生活が始まって初めての休日だ。俺はというと、土曜日だというのにも関わらず朝の11時から駅の前にいた。11時は朝なのか? という疑問の声も上がるだろうが俺からしたら立派な朝である。普段の俺ならまだ起きていないのだから。俺が普段寝ているという時点で11時は朝なのだ。異論は認めない。


「悠くん! お待たせ!」


「別に待ってないぞ?」


「ふふ。なんだか恋人みたいなやり取りだね!」


「そうなのか?」


「むぅ……」


 なぜか彩花は頬を膨らませて不満そうにこちらを見てくる。俺は事実を伝えただけなので恋人らしいか? と聞かれたらそんなことは無いように思う。彩花からは11時に駅に集合と伝えられたので俺は11時ちょうどに駅に到着していた。彩花はほんの数分だけ遅れてきたが、数分なら誤差の範疇であろう。


 彩花の私服姿を見るのは3年振りとなるわけだが、制服を着ている時とはまた違った風である。端的に言ってしまうと、可愛い。白のブラウスにゆったりとしたズボンを着てきており、少し大きめのワンポイントのついた白のトートバッグを持っていた。実に春らしいといった感じである。

 ちなみに俺はというと、白のパーカーにジーパンといったシンプルな格好である。個人的に思っているだけなのだが、パーカーほど万能な服はないと思う。男だろうと女だろうとパーカーを着ておけば不思議とよく見えてしまうのだ。俺はパーカー推しなので話せば長くなりそうなのでパーカー談義は割愛とさせてもらう。


「それで? どこに行くんだ?」


「それは着いてからのお楽しみ!」


「なんだそれ」


「そっちの方が楽しいでしょ? それじゃ、行こっか!」


 そう言って彩花は駅の中へと向かって歩き始める。俺は11時に駅前とだけしか伝えられていなかったので行き先は何も聞いていないのだ。なので、俺は黙って彩花の後に続く。それから、電車に乗って5駅目で電車を降りる。


「ここって俺が引っ越す前の地元だよな?」


「うん!」


「彩花も引っ越したのか?」


「引っ越してないよ」


「それなら、わざわざ迎えに来てくれたのか?」


「せっかくの定期券だしね!」


 そう言って彩花は定期券が入っているのであろうピンクのパスケースを見せてくる。俺としては迎えに来てくれなくても、ここに来いと言ってもらえれば行ったのに。これだと、彩花はわざわざ俺のために往復しただけだ。彩花は引っ越していないのなら、今いるこの駅が彩花の実家からの最寄り駅なのだから。


「なんか、すまんな」


「いいよ! 私がしたくてしたことだしね! そんなことよりも早く行こ!」


「行くって言ってもここまで来て遊びに行くような場所あったか?」


 俺が引っ越す前の記憶だと、この駅周辺には大型のショッピングモールがあるくらいで他はカラオケくらいしか無かったような気がする。それくらいなら、わざわざ電車に乗ってここまで来なくても今の俺の住んでいる付近にもある。


「悠くんは忘れちゃったの?」


「何をだ?」


「着いたら分かるよ!」


「ちょっ、おい彩花?」


 彩花はそう言って俺の手を取って歩き始める。高校生にもなってこのような軽率な行為をしていては勘違いしてしまう男子は星の数ほどいるだろうに……。ただでさえ彩花は美少女といっても過言では無いくらいには可愛くなっているのだから。

 当の本人である彩花としては何も意識せずに小学生の頃と同じような感覚でやっているんだろうなと思うと、ここで何か言うのも野暮のような気がして口を噤むしかない。そんなことを考えていたが故に、彩花の耳が真っ赤になっていることに俺は気付くことは無かったのだった。

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