第3話 不機嫌な幼馴染


 彩花が俺の事を好き? 智也はいきなり何を言っているんだ? 今日だって3年ぶりに再会したばかりだぞ? 


「何言ってるんだ? 馬鹿なのか?」


「おいおい、一応今日が初対面のやつに馬鹿は無いだろ」


「すまん。つい、本音が出てしまった」


「ははは。その本音こそ隠せよな。悠って面白いな」


 どうやら、ほぼ初対面である俺に馬鹿呼ばわりされたことは対して気にしていないようだ。気にしていないどころか面白がっている。これが陽キャを極めた者の余裕というやつか。俺なら、初対面で馬鹿呼ばわりなんてされたら絶対に関わりたくない。そういう礼儀がなってないやつは、絶対に面接くさいやつだと相場が決まっているのだ。ちなみに俺は自分自身が面倒くさいやつだという自覚はある。陰キャに面倒くさくないやつなんていないのだ。


「それで? いきなり何言ってんだ?」


「あぁ、それな。だってさっきからずっと、」


「さっきから何を楽しそうに話してるの悠くん?」


 智也が言い切る前に彩花が会話に割って入ってくる。気のせいだろうか? 何だか微妙に不機嫌そうな顔をしているような……? 陰キャを極めた俺はこういった人の所作には敏感なのだ。常に相手の顔色を伺った対応をしていないと会話が無駄に長く続いたりと面倒なことが増えるのだ。


「ん? 彩花か。別に面白い話なんてしてないぞ?」


「そう? さっきから随分と楽しそうにお話してるみたいだったけどね?」


「もしかして、怒ってる?」


「……別に怒ってない」


 あぁ、これはあれだ。完全に不機嫌なやつの反応だ。普段なら、すぐに謝るのだが今回ばかりは俺が何かやらかした記憶が無いので謝るに謝れない。相手が不機嫌そうだからといった理由だけで謝ると、大抵の場合において『なんで謝ってるの?』といった感じに余計に不機嫌になってしまうのだ。謝る時は自分が何をしたかを添えて謝るのが穏便に済ませるコツなのだ。


 こういった時は相手が話し始めるのを待つか、どこかに行くのを待つのがセオリーなのだが、彩花の性格が小学生の頃から変わっていないのなら恐らく前者であるだろうから俺は沈黙を貫きながら彩花が話始めるのを待つ。ここでポイントなのがスマホを触ったり本を読み始めるなど、自分勝手なことはせずに相手に向き合って待つことである。


「……ずるい」


「ずるい?」


「私と歩いてる時は相槌ばかりで自分から話してくれなかったのに……」


「あぁ……」


 歩いている時というのは校門から続く桜道から教室に入るまでのことであろう。確かに俺は彩花の話を聞くことに徹していたので自分から話を振ったりはしなかったけども……なんで? 俺の率直な感想であった。少し考えてみるも不機嫌になる理由がまるで分からなかった。会話に対しては相槌だけでなく返答もしていたのだから、会話としては成立しているはずなのだが……。


 分からないことは分からない。いくら考えても分からないことをいつまでも考えるというのは、陰キャであろうと陽キャであろうと愚者のすることだ。特に、こういった人の精神面に関わることなど他人である自分が分かるわけがないのだ。ここで分かると言うやつはただの傲慢野郎だ。よって俺がすべきことは1つ。お詫びと提案である。


「確かに久しぶりの再会にしては冷たかったかもな……悪かった」


「……うん」


「お詫びと言ったらなんだけど、今度また久しぶりに遊びに行かないか?」


「ほんと!?」


「彩花さえ良ければだが」


「行く! 約束だよ!?」


「分かってるよ」


 我ながら完璧である。もちろんこの約束は反故になどしない。それに、久しぶりに再会した幼馴染と出掛けるというのも悪くは無いだろう。いくら陰キャと言っても、たまには遊びに行きたくもなる。それに、1回遊びに行けばしばらくは何事もなく過ごせるだろうしな。さっきは遊びに行きたくなることもあると言ったが、俺も陰キャだ。やっぱり家に引きこもりたいというのも本音ではあるのだ。


「……すげぇ。こんなにナチュラルにデートに誘ってるやつ初めて見た」


「何を言ってるんだお前は?」

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