第8話 マリオン視点Ⅰ


 彼女は私を慕おうとしてくれていたのに・・・。


 やはり、あまりにも不仕付けな願いだったのだろう。


 彼女は受けてくれるだろうか・・・。


 しかし、あの調子では無理だろう。


 非道な人間だと軽蔑されたに違いない。


 きっと傷つけてしまった。


 彼女を馬鹿にしているにも程がある、と自分でも思う。


 自分で頼んだ癖に、勝手なものだが彼女の表情が曇るのが辛かった。



 誰か別の女性を探して、頼まなくてはならないかもしれない・・・。


 だが、適当に選んだいい加減な女性に頼むのは嫌だと思った。


 彼女だからこそ頼みたいと思ったし、彼女以外には頼みたくないというのも事実だった。


 小柄で、ふんわりとした金の巻き毛に、愛らしく大きな榛色の瞳。


 口を開けば鈴が鳴るような優しく澄んだ声で、ずっと話を聞いていたくなるような、その性格までも素直で可愛らしい女性。


 それが、マリオンにとってのクリスティーナだった。


 以前偶々、収穫祭の警備中に見かけて、やっと待ち望んでいた存在を見つけたと思ったのだ。


 どういう種類のと聞かれれば、後ろ暗さは伴うが・・・『一目ぼれ』というのも、あながち間違いとは言い切れない。


 彼女はある意味でマリオンの理想を具現化したような存在だった。


 そんな彼女だからこそ、もう一人の憧れであるオスカーと・・・と思ったのだ。


 クリスティーナには、同じ色を持っているからオスカーを相手に、と言ったが、本心では同じ色を持っていようが無かろうが彼でなくては駄目だと思っていた。


 ただ、自分と彼が同じ色だった事は幸いで、尤もらしい理由を付ける事が出来て良かったという側面はあったかもしれない。



 結局、こちらの事情を一方的に押し付けただけで、まだ彼女からの返事は聞いていない。


 けれど、クリスティーナがこのことを受け入れ難いというのであれば、自分もいい加減にそろそろ馬鹿げた夢は諦めることにするべきだろう・・・そして、彼女に真実を話して、巻き込んでしまったことに誠心誠意謝罪しなくては・・・と、マリオンは思うのだった。

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