39話作戦開始

 話し合いが終わった後、一応アテネさんに伝える。


「俺が剣聖の甥っ子というのは内緒でお願いします」


「ん? どうしてだい?」


「あまり、貴族であることを知られたくないのです」


「はぁー珍しい奴もいたもんだね。ああ、わかったよ」


「感謝します」




 その後、皆と合流する。


「とまあ……そんな感じになった」


「ワタクシの初陣には相応しいですわっ!」


「リーダーですか〜、責任重大ですねー」


「へっ、仕方ねえ。俺がフォローしてやるか」


「オイラも頑張りますっ!」


「ああ、みんな力を貸してくれ」


「ふーん……甘っちょろいけど、悪くないパーティーだね」


「アテネさんはどうしますか?」


「そうだね……アンタたちが良いなら、ひとまずパーティーに入れてもらえるかい?」


「ええ、俺は大歓迎ですよ。みんなは?」


「俺には異論はないぜ。強いし、思慮深い人っぽいしな」


「お、オイラは大賛成ですっ!」


「ワタクシも問題ありませんわ」


「私もー。ライバルにはならなそうなんでー」


「じゃあ、よろしく頼むよ」


 こうして、臨時パーティーを結成することになった。




 そして……数日が経過した。


 秘密裏に進めているので、とある別の建物を借りて作戦会議となる。


 なので、ここにきたのも俺とアロイスのみだ。


「お集まりの皆さん、ギルドマスターのロイドです。中級以上ランクの方々、今日はありがとうございます。早速ですが、作戦をお伝えしたいと思います」


 今回は極秘任務ということで、少数精鋭でいくらしい。

 四級から七級の信用のある者達だけでいくと。

 上級がいないのは、動いただけで相手が警戒する場合があるからだと。


「まずは、住民の避難などは事前に手配が済んでいるようです。我々は、真っ直ぐに領主の館へと突撃すれば良い状態ですね。さすがに、お偉い方も何もしないわけにはいかないと。なので、電撃作戦となります」


 なるほど、住民には迷惑でしかないもんな。


「そして、各自にバラバラに行動してもらいます。今から紙を配るので、記された位置で待機してください。決行の時間も書いてあるので確認を。そして、その場で燃やしますので、しっかりと覚えてください」


 全員に紙が配られて、燃やされていく。


「俺は……突撃部隊だから正門の前か」


 正午の鐘を合図に突撃か。

 食事時が一番気が緩む時だからだな。


「はい、覚えましたね? では、今回のリーダーはユウマ殿に務めて頂きます」


 俺は一歩前に出て、後ろを振り返る。

 十名ほどの冒険者が、一斉に俺を見つめてくる。

 しかし……様子が変だ。


「私が本作戦のリーダーを務めることになったユウマと申します。若輩者の身ですが、皆さんの力を借りて作戦を成功させたいと思います。どうか、よろしくお願いします」


 皆から拍手が送られる。

 どういうことだ? 皆が暖かい目で見ている。

 ギルドマスターが何かをしたのか?

 普通なら反対とはいかなくても、不満を持つのが普通だ。




 すぐに解散となり、俺たちも準備へと動き出す。


「なんか、様子が変だったな。というか、一番下の俺がリーダーっておかしくないか?」


「いや、そうでもないぜ」


「アロイス?」


「さっき、顔見知りの奴らに言われたぜ。お前のところのリーダーに、自分の若い者が助けられたってよ」


「ん?」


「前の戦争の時に、助けた奴らがいたろ?」


「……ああ、回復魔法をかけたことか?」


「それだ。それを聞いた奴らは、最初はお前を疑っていたようだぜ。きっと、あとで請求しにくると。だから、礼にも来なかったとよ。しかし、一向に来ない」


「当たり前だ。俺にとっては、それが普通だ」


 別に神聖でもなく、ただの魔法の一種だ。

 攻撃魔法を放ったら金を払うのか? 払わないよな。


「クク……俺がそれを伝えたら目をひん剥いていたな。それで、団長のことを観察していたそうだ。その結果……自分達が間違っていたと気づいたとさ。でも、今更礼を言うのもアレだから……まあ、ああいった形になったんだろうぜ?」


「ふうん……まあ、よくわからないが認めてくれたなら良いか」


 作戦がスムーズに行き、民に犠牲が出ないならそれで良い。


「団長にも謝っておいてくれってよ。この借りは、作戦に役立つことで返すってよ」


「ああ、それで十分だ」



 そして、全員に作戦を伝えた翌日……。


「よし、準備はいいな?」


 全員が頷くのを確認して、王都を発つ。


 さて、いよいよ本番だが……。


 アテラさんをどうするかだよな……。




 ◇◇◇◇◇


 ~王城にて???視点~


 ……全く、余の前で酒を飲むとか。


 まあ、良いんだけど。


「おい、これでいいのか?」


「ああ、すまんな。面倒なことを頼んで。本来なら違反に当たるが……」


 そもそも会うことすら、本来なら良くはない。


「ああ、俺には断る権利もあるしな」


「だから、剣聖ではなく……ただの友として頼んだのだ」


「わかってるさ。まあ、俺もユウマの力になれるなら良いさ」


「うむ……お主が言っていた小さき少年が、今では立派な青年になろうとしているか。時の流れとは早いものだ」


「へっ、俺とタメのくせして。まあ、お前が国王として見れるくらいの時間は経ってるな」


「まだまだ掌握出来ていないがな」


「仕方ねえよ。お前には、人柄も良く優秀な兄がいた。王位を継ぐことなんざ考えもしなかったろ。俺と一緒に国を出るとも言ってたくらいだ」


 学校に通っていた時、余には友がいなかった。

 誰も彼も、余を王族としか見ない。

 しかし、シグルドだけは違った。

 ごくごく普通に接してくれたのだ。

 そして、最後まで余という権力に頼ることなく、ここまで上ってきた。


「余は自由になりたかった。王族という狭い世界から飛び出して、世界を見て回りたかった」


「まあ、長年の夢だったもんな。でも、一つはこれからでも叶うだろ?」


「ああ、そうだな。亡き父や兄の意思を継ぎ、エデンや他国との同盟を結ぶ。その際には世界を回るだろう」


「そのためには、まずは国を纏め上げることだな?」


「今回は良い機会だ。オーレンが力を貸してくれたしな」


「あの妖怪ジジイか……そんなわけはないが、勝てる気がしねえ」


「独特の雰囲気の持ち主だからな。余とて、未だに子供扱いだよ」


「ティルフォング家を抑えた上に、伯爵への情報操作か……こえぇな」


「全くだ。だが、頼もしい。そして、己の未熟さに腹が立つ……!」


「これから頑張ればいいんじゃねえの?」


「相変わらず、お主は単純で良いな」


 だが、シグルドの言う通りか。


 ティルフォング家を抑えつつ、貴族の特権意識を変えていかなくては。

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