幕間~動き出す物語~
……ふむ、どうしたものかのう。
中々の好青年じゃったが……。
男爵の次男坊では、ホムラをやるわけにもいかん。
「じゃが……たった一人の孫娘。幸せになって欲しいと思う」
亡き息子夫婦も、そう願っているじゃろう。
しかし……我が家は王家を守る最後の砦。
我が家が絶えれば、ティルフォング家が更に増長する。
「最悪の場合は、養子を迎えることも視野に入れておくかのう」
「随分と気に入ったご様子で」
「ノインか……お主から見てどうだ?」
こやつは時期執事長となる男。
まだ若く、少し調子に乗ることが玉に瑕だが……。
諜報から護衛、単純な執事とての能力、人を見る目などが優れている。
「それは……婿としてでしょうか?」
ユウマ殿の身辺調査や家族構成、趣味嗜好や戦闘能力など……。
此奴には一通り調べてもらった。
そして最後に、儂の目で確認をした。
「ふむ、気が早いが……そういうことも視野に入れておる」
「ホムラ様が惚れ込んでますからね。私から見ると……甘いですね」
「やはり、そこかのう」
わしもノインと同じ意見だ。
優しいといえば聞こえがいいが、それは甘さにも繋がる。
我が家は甘いだけでは、当主としてやっていけない。
「しかし……単純に好きですけどね。真っ直ぐで、人を憎まない姿勢には好感が持てます」
「ホホッ! 気があったな!」
そう……そこじゃよ。
彼の環境ならば、憎むか腐るかのどちらかになる。
しかし……彼はそれでも尚、真っ直ぐに生きようとしておる。
あんな若者も、まだいたんじゃな……。
「甘いのならば、周りがフォローすればいいので。完璧であったら、私などいりませんしね」
「お主のいう通りじゃな。まだ若いし、これからいくらでも学べるか……儂が直々に仕込んでも良いか」
「それは怖いですね、伯爵の方すら震え上がる貴方の教えですか」
「奴らはなっとらん。領地は預かっているだけで、本来は国の物。それを何を勘違いしたのか私物化する奴もおる始末」
儂も指導係や、御意見番のとしてやってはいるが……。
いかんせん、歳には勝てん。
「そうですね、ほとんどは真面な人ですが、2人ほど問題がある方がいますね」
「サウスの小僧と、ザガンの小僧か……」
あの2人が、それぞれ野心を抱えているのはわかっている。
彼奴らを領主にしてしまったのは、儂の過ちの一つ。
丁度息子夫婦が亡くなり、儂が意気消沈してしまっていた時期に決まった。
「悔やまれますね……ティルフォング家が後押ししていましたから」
「……だが、このままにはしておかん。何か隙があれば……」
「オーレン様、お嬢様がこちらに来ます。帰ってきたようですね」
「そうか、では終わりにしよう」
ユウマ殿のことは気づかれるわけにはいかない。
そして、1分ほどすると……。
「お祖父様!」
「こらこら、扉は静かにと……」
やれやれ、お転婆なのは母親に似たようだ。
「す、すみません……でも、大変なんです!」
「うむ……ノイン」
「ええ、お茶を入れてきます」
「ホムラよ、いつも言っているな?」
「も、物事は冷静に正確に……」
「そうじゃ、まずは落ち着くとしよう」
ノインの入れた茶を飲み、ホムラを一息つかせる。
「で、どうしたのじゃ?」
「ゆ、ユウマさんのパーティーに入れたのです!」
知っておるが。
「そうか、良かったのう」
「はいっ! とっても素敵で、私が落ち込んでたら励ましてくれて……あっ! そうじゃなくて……」
「お嬢様、ベタ惚れですね」
「なっ——!? 何をいうのですかっ!?」
「違うのですか?」
「ち、違くないけど……」
「こら、ノイン。話の腰を折るでない」
此奴はホムラをからかうのは趣味じゃからな。
「申し訳ありません。それで、如何しましたか?」
「えっと……今、受けている依頼が……」
ホムラから一通りの話を聞く……。
「なるほど、其奴が怪しいと……」
ほう……そんなことになっておるのか。
ギルドマスターめ……儂に頼ることを良しとしない姿勢は評価する。
だが、まだまだ若い。
いくらギルドマスターとはいえ、抱えるには少し厳しい案件じゃ。
「お祖父様の目から見て、サウス伯爵はどういった方ですか? 私は、少し嫌な感じがしましたけど……いやらしい意味で」
「あの小僧には野心があるが、それを悪いとは言わん。しかし、その方法がよろしくない。自分ではない誰かを不幸にして叶えようとしておる」
「そ、そうなのですね」
「して、どう動くのじゃ?」
「えっと、ギルドマスターの通知が来てからになります」
「ふむ……ノイン、すぐに国王に面会を」
「はっ」
「へっ? お、お祖父様?」
「ホムラ、よく知らせてくれた」
「で、でも、あまり関わることを避けていたのでは? 私は、少し相談に乗ってもらえたらいいなって……」
「確かに儂は御意見番で、国王の後見人じゃ。しかし、権力を行使することを好まない。そうするとただでさえ多い敵が増えるからのう。それに、老害がいつまでもでかい顔をするものでもない」
「え、ええ……」
「しかし、証拠が揃いつつあるなら話は別じゃ」
きな臭い動きはしていたが、伯爵は領主権限を持つ。
いくら儂とて、おいそれと簡単手が出せるものではない。
儂でも気づかないという事は、ティルフォング家の小僧が絡んでいるな。
「で、でも、ユウマとかには言ってなくて……」
「わかっておる、ユウマ殿に正体を明かしていないことは。お主達が解決できるなら、それはそれで良い。しかし、保険は必要じゃからな」
「お祖父様……ありがとうございます」
「礼はいらん。可愛い孫娘のためではなく、公爵家当主オーレン-バルムンクとして動くだけじゃからな」
何故なら相手の後ろにいるのは……。
我が国に二つしか存在しない公爵家、当主ティルフォング-ターレス。
ならば、儂が出ていっても誰も文句は言えまい。
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