37話???との出会い

 ひとまず、場所を変えることにする。


 何故なら……めちゃくちゃ注目の的になっていたからだ。




「あぅぅ……」


「おい? いつまで恥ずかしがっているんだ?」


「恥ずかしいに決まってますわっ! あんな大衆の面前で……!」


「まあ、いいじゃないか。これで、俺のパーティーということが知れ渡るだろう。何か言ってきたら俺にすぐ言ってくれ。俺の仲間を侮辱するならタダじゃおかない」


「…………」


 なんだ? 固まってしまったぞ?


「聞いているのか?」


「ひゃい!?」


「うおっ、びっくりした……」


「さ、さらっと言うんですから……」


「むぅ……まあ、良いでしょうかねー。私は愛人でも良いので」


「待て待て、そもそもそういう関係ではないから」


「あ、遊びだったんですか!? くすん……」


「ユウマ!? 複雑ですが、男としてそれはどうかと思いますわよ!?」


「おいこら! 話をややこしくするなっ!」


「えぇー? 面白くないですか?」


「面白くないっ!」


「えっ? でも、そうすると愛人を認めないといけない……?」


「おい、ホムラ。何をブツクサ言っている?」


「い、いえっ! 何でもありませんわっ!」


「さて……これは話し合う必要がありそうですねー」


 ……やれやれ、随分と賑やかになったもんだ。




 その後は解散となり、何故かシノブはホムラと一緒に行くと言ってた。


 二人で話しがあるとか……まあ、初めての女性仲間だしな。


 色々と話したいことや、これからのことがあるだろう。


 俺達男には、どうしてもわからないこともあるし。


 仲良くやってくれるなら良いことだ。


 ……何故か、少し背筋が寒くなった理由はわからないが。


「さて、そうなると夕ご飯をどうするか」


 シノブと食う予定だったからなぁー。


「すいませんが、少しよろしいですかな?」


 俺が振り返ると、七十歳くらいの男性がいた。

 身長も高くなく、背筋も少し曲がっているが……。

 何となく、雰囲気のある方に見えた。

 もしかしたら、お医者様や先生の類かもしれない。


「ええ、なんでしょうか?」


「少し道に迷ってしまいまして……」


「なるほど、地図はありますか? もしくは、名前はわかりますか? えっと、ここなら……では、案内しますよ」


「ほう?」


「えっ?」


 今……一瞬雰囲気が変わったような。


「いえいえ、迷ったと言っただけなのに、随分と親切な方だと思いまして」


「えっと……お節介でしたかね?」


「そんなことはありませんよ。もしよろしければ、案内して頂いても?」


「ええ、もちろんです」


「物腰も柔らかく、言葉遣いも丁寧……驕った様子もない」


「……何か変でしょうか?」


「申し訳ない。人を導く仕事をしているのですが、若いのにしっかりしているなと感心していたのです」


「やはり、そうでしたか。佇まいや、雰囲気があったのでそうではないかと」


「ほほっ、嬉しいですな。では、お願いしますよ」


「ええ、こちらです」




 お爺さんの歩幅を合わせ、ゆっくりと歩く。


「えっと……お名前をお伺いしても?」


「これは私としたことが……親切な若者に感動していましたね。私の名前は、オーレンと申します」


「お褒めのお言葉ありがとうございます。私の名前はユウマと申します。冒険者を生業としている者です」


「ほう? ……貴族の方ではないのですか? その所作や言葉遣い……」


「訳あって、家名を名乗ることは控えているのです。申し訳ありませんが……」


「いえいえ、そういう方もいらっしゃるでしょう。ところで、恋人はいらっしゃるのかな?」


「へっ?」


「ほほっ、緊張なさっているようなので……」


 確かに何故かわからないが、この人を見ていると背中に汗をかく……。

 物腰も柔らかく、優しそうなご老人なのに……。

 多分、教育者ということがそうさせているのだろう。


「も、申し訳ありません。オーレン殿が悪いわけではなくてですね……」


「いえいえ、わかっております」


「恋人ですか……いませんね」


 シノブとは、まだそういった関係ではないし。

 兄貴に世継ぎが出来るまでは、俺にその気はない。


「ほう……しかし見た目も良いし、性格も良さそうです。きっと、モテるのでは?」


「いえ、そんなことはありませんよ。いまいち、自分というものがわかっていないのです。あまり、家から出ることもなかったので」


 軍では男だらけだったし、学校では女子から避けられていたし。

 というか、ヒソヒソ話をよくされていた。

 もしかして……あれってイジメだったのか?


「なるほどなるほど……自覚がないタイプと。お答えし辛かったら、答えなくて良いのですが……家族と上手くいってないので?」


「父親と兄貴と少し……」


 やはり先生ということなのか、自然と言葉が引き出された。


「優秀な次男坊に嫉妬していると……うむ、良くある話ではありますね」


「生徒さんにも?」


「ええ、いますよ。中には長男を排除して、自分がという生徒も」


「そうですか……」


「今のは極端な話ですが、国のためを思うのならそれでも良いと思いますがね」


「それは……?」


「長男だからといっても、優秀でなければ次男が継げばいいのです。もっと言えば、外から婿なり養子なりでも良いのです」


「凄い考え方ですね……」


 これって、聞かれたらまずいよな?

 貴族批判に値するし……。


「ほほっ、この辺りにしておきましょうかね。ただ、貴方はその気はなさそうですね?」


「ええ、俺には考えられないことです。家は兄貴が継げば良いと、本気で思っております」


 ただ、エリカに理不尽な行いをするなら——そうはいかないが。


「争う気はないと……ふむ」


「あっ、ここですね」


「おやおや、楽しくてあっという間でしたね。すみませんね、案内してくれた方に説教臭いことを申しまして……」


「いえ、そんなことはありません。話を聞いてもらって、改めて自分の気持ちに気づきました。オーレン殿、ありがとうございました」


 俺は頭をしっかり下げる。

 本当に、少しスッキリしたからだ。

 家を出て冒険者になったことで、何か考え方が変わるのではないかと思っていた。

 しかし、やはり兄貴を押し退けてまで継ぐ気は無い。


「そうですか、なら良かった。では、失礼しますね——ユウマ-ミストル殿」


「ええ、オーレン殿……えっ?」


 俺が顔を上げると、オーレン殿はすでに建物に入っていた……。


 俺……ミストル家って言ってないよな?



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