26話敵地にて

 さて、まず初めにすることがあるな。


「シノブ、頼めるか?」


「あいあいさー! 私の十八番ですねー」


「ああ、偵察を頼む。ただし、無茶はしないこと……いいな?」


「はーい、わかってますよ。ではでは〜」


 素早い身のこなしで木の上の飛び乗り……。

 そのまま木から木へと乗り移っていく。


「……実際に目にすると凄いな」


「しかも、音もしないですよ。オイラなんか、登るだけでバレそう」


「ヴァンパイア族か……団長はこういう言い方嫌いかもだが、いい拾い物をしたぜ」


「まあ、好きではないが……否定は出来ないか」


 優秀な偵察役というのは育ちにくい。

 何故なら育ちきる前に、失敗して死ぬことのが多いからだ。

 そして優秀な偵察役というのは、実戦でないと育たない。

 この矛盾点を常に抱えている存在だ。



 そして、十分ほど経つと……。


「ただいまです」


「ご苦労様、シノブ。危険な役目をありがとな」


「えへへ〜嬉しいですねー。私、ユウマさんのそういうところ好きです」


「そ、そうか」


「わかります! 良いですよねっ! 真っ直ぐに言ってくれる人って」


「はいっ! 男の人って、そういう人少ないですからー」


「はいはい、わかったから。で、どうだった?」


 ありがとうやごめんなさいだけは、きちんとしなさいって育てられたし。

 どういうわけか、出来ない大人が多いんだよなぁ……。


「建物の周りには人がいませんでしたねー。ただ、その近くに十人くらい人が集まってました。おそらく、あの中にオランさんがいると思います」


「敵の見張りがいないということか?」


「ええ、私の見た限りでは……信用できませんか?」


「いや、これまでの仕事ぶりは見ているからそれはない。ただ、罠があると思った方がいいか?」


「ああ、その可能性は高そうだな」


「でも、調べてるうちに突入しそうなんですよね。私が姿を見せるか迷ったんですけど」


「いや、それで正解だと思う。敵に間違われる可能性大だ」


「ですよねー……どうします?」


 先程から、ロナさんは黙って目を瞑っている。

 シノブが偵察に行っている間に言われたことがある。

『私の気持ちに関わらず、貴方達の判断でお願いします』と……。

 その言葉を言うのに、どれだけの葛藤があっただろう。

 大切な人が死ぬかもしれないのに……。


「アロイス、俺は決行する。甘っちょろいリーダーだが、フォローしてくれるか?」


「へっ……仕方ねえな! やるとするか!」


「オイラも頑張りますっ!」


「ええっ! やっちゃいましょー!」


「皆さん……ありがとうございます!」


「いえ、自分達で決めましたから。勝算はありますし」




 イージスを先頭に、俺、ロナさん、シノブ、殿をアロイスで進んでいく。


「本当に敵がいないな……」


「むっ……ユウマさん、今……声が聞こえました」


「なに? 始まってるか……急ぐとしよう」


 警戒をしつつも、急いで建物へ行くと……。


「ギャァ—!?」


「腕がァァァ!」


「血が止まらないぃぃぃ——!?」


 建物の入り口付近は、阿鼻叫喚だった。

 手足が潰れた者、腹に穴が開いた者、顔がない死体まである。


「チッ! 遅かったかっ!ロナさん! この中にいますか!?」


 今すぐにでも回復に向かいたいが、何が起きているのを判断しなくては!


「オラン!! ……いません!」


「いや! 団長! 誰か建物から出て来るぜ!」


 肩を押さえながら、とある男性が出て来る。


「オラン!!」


「ロナ!? どうしてここに!?」


「貴方が心配で! 冒険者の方にお願いして!」


「そうか、すまない。俺が馬鹿だった……まんまと騙されてしまった」


「シノブは辺りを警戒! イージスとアロイスは生きている奴がいたら俺の元に!」


 それぞれが頷いて、行動を開始する。

 よし、俺はその間に……。


「お話中失礼します。何があったかお聞きしても?」


「貴方がリーダーですか……随分と若いが」


「平気よっ! ここまで私を無傷で送ってくれたもの!」


「そうか……感謝します」


 まずは治療が先か……重症だからヒールではダメだな。


「失礼します……この者の全ての傷を癒したまえ——ハイヒール」


 中級クラスである回復魔法を唱えた。

 これならば、欠損箇所以外は治せるはず。


「えっ!? 回復魔法!?」


「大丈夫よ、この方は……でも、中級クラスの? まさか、この方の母親って……」


「フゥ……お二人共、お話は後に。これで落ち着いて話せますね?」


「あ、ああ……俺はザンガという六級冒険者に誘われたんだ。ゴンザレスを見つけたから、みんなで倒して山分けしようって。あいつは財宝も溜め込んでいるからって」


「なるほど……ザンガが誘う役で、ゴンザレスが餌ということですか?」


「若いのに……いや、今はそれどころじゃない。そうだ、それで俺達はまんまとこの場所までやってきてしまった。敵が強いからと、装備や薬草類を整えさせられてな」


「そして、その装備や金品を奪うってことか。怪しいとは思いませんでしたか?」


「思ったさ! でも、俺も含めて切羽詰まった者達が多くて……装備だって借金してまで買った奴もいるのに……!」


 見えてきたな……そういった方々をカモにして、ザンガが誘いをかける。

 そしてゴンザレスが待つ場所まで案内する。

 切羽詰まった人達なら、行方不明になってもそこまで気にならない。

 逃げ出したか、どっかに売られたかと思うだろう。


「そういう仕組みですか。一番肝心のことですが……何が起きて、ああなったのてすか?」


「中は一本通路になっていて、その奥から土魔法が飛んできて……俺は前の人で威力が軽減されて、なんとか生きて出ることができた……」


「完全に仕組まれていますね。しかも、土魔法だと?」


 魔法使いが盗賊団にいる?

 魔法使いとは回復魔法ほどではないが、そこそこ希少な存在だ。

 わざわざ盗賊団に入るメリットなどない。

 これほど優秀なら貴族のお抱えや、高名な冒険者としてやっていけるはず。


「それより! は、早く逃げないと……」


「ユウマさん! 中から来ます!」


「団長! 生きてる奴らを連れてきたぜ!」


四人か……しかも、ヒールでは間に合わない。

一人一人にハイヒールでは魔力と時間が足りない。

……アレを使うしかないか。


「オイラはどうしますか!?」


「アロイスは入り口付近にて足止めを! シノブはフォローを! イージスは俺の側にいて状況報告! 俺はこれより——上級回復魔法を使う! その間は身動きが取れない! わかったか!?」


「「「了解!!!」」」


 さて……集中しろ。


 母上の教えを思い出せ。


 




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