第12話始めての戦争に参加

 八級に上がり、二週間が過ぎようとしている。


 無事に八級に上がったことで、依頼の幅も広がってきたし。


 討伐依頼系の仕事も増えてきて、実戦経験も積み重なってきた。


 さらには、俺は新しい技を覚えた……というか、覚えざるを得なかった。


「オェェ——!」


「叔父上!? またですか!?」


 基本的に、叔父上は毎晩のように飲み歩く。

 酒に強いので、そこまで酔うことはないのだが……。

 ここ最近は、酷い二日酔いの状態で帰宅する。

 何故なら……俺がこれを覚えてしまったからだ。


「ユ、ユウマ……頼む」


「かの者に宿る異物を取り除け——リムーブ」


 解毒作用のある魔法を新しく覚えたのだ。

 叔父上の世話になっていることと、これからの冒険者活動に必要だと思ったからな。


「おっ!? スッキリしたぜ! いやー便利だな!」


「あの? そのためだけに覚えたのではないのですが?」


「かてーこと言うなよ! ほら! 稽古するぞ!」


「はぁー……よろしくお願いします」


 その後、回復した叔父上にボコボコにされる。

 いや……別にいいんだけど、何か腑に落ちない……。

 自分に回復魔法をかけながら、俺は複雑な気分になるのだった……。



 そんなある日……冒険者ギルドに震撼が走る。


「た、大変だぁぁ——!! ウィンドルが攻めてきたぞ——!」


 来たか! 相変わらず、タイミングが読めない奴らだ!

 喧騒に包まれる中、アロイスと話し合う。


「団長! ウィンドルについては?」


「もちろん、知っている。確か……」


 大陸の中央に位置すると言われる魔道国家ウィンドル。

 その国内は魔物と瘴気で溢れかえっていて、人間が立ち入ることの出来ない場所だ。

 もう千年以上、誰も踏み入れたことはないらしい。

 わかっていることは、東に位置する我が国と、南に位置する亜人国家であるエデンを敵視していること。

 年に二回ほど、召喚士と呼ばれる魔物を操る者達が攻めてくることだけだ。

 もちろん予告などは一切ない。


「知ってるならいい。経験は?」


「あるにはあるが……軍学校時代にな。ただ、完全なる後方支援組だったな」


「学生さんなら仕方ないぜ。じゃあ、今回が初ということか」


「冒険者は、参加すれば国から報酬が貰えるんだよな?アロイスは?」


「 俺は二回だけだが、相当稼げるぜ。ひとまず参加でいいか?」


「もちろんだ、この国には大事な人達がいる。よし、申請をしてこよう」


 白き風として登録をして、すぐに王都を発つ。




 そのまま馬を駆り、国境付近へと向かう。


「今回は……サウス伯爵領か」


「俺は貴族のことはわからないが……確か、八人いる伯爵の一人だよな?」


「ああ……大陸の最東端にある我が国は、八つの都市と王都で成り立っている。その中でも、重要な役目の貴族がいる。王家を支える二大公爵、国を運営する四大侯爵、都市の領主を担う八大伯爵だ」


 その下には子爵、準子爵、男爵、準男爵、騎士伯とあるが……。

 明確に数が決められているのは公爵、侯爵、伯爵までだ。

 もし下克上があれば、ただ取り変わるという仕組みだ。


「うへぇ……さっぱりわからないぜ」


「まあ、普通はそうだろうな。別に知らなくても生きていけるし」


「だが、そのサウス伯爵っていうのは?」


「うーん……俺も詳しくはないが、悪い評判ではなかったと思う」


 一応、大事な場所だからまともな人物じゃないといけないし。


「ならば、一安心ではあるか」


「ただ、貴族特有の考えの持ち主ではあるだろうな」


「平民や冒険者死のうがどうでも良いってことか?」


「そこまではは言わないが……まあ、近いな」


 きちんと民のこと思いやれる貴族のなんと少ないことか……。


「じゃあ、切り捨てられないように気をつけないとだな」


 その後、サウス伯爵領に到着すると……。


 嫌な顔に出会う……そりゃ——いるよな。


「おい! ユウマ! なにをしている!?」


「これはバルス兄貴。もちろん民を守るために、冒険者として戦争に参加しにきました」


「ハッ! 冒険者に成り下がった上に、民を救うためときたか! 大方、金欲しさにやってきたんだろ!? 惨めな奴め!」


「こいつ……!」


「アロイス、良いんだ。兄貴——弱いんだから無理はするなよ?」


「なっ——!? き、貴様ぁぁ——!! バカにしおって!」


「なにを勘違いしている?俺は普通に心配をしている。兄貴が死んだら母上が悲しむ」


 これは本心だ。

 憎い兄とはいえ、母上からしたらお腹を痛めて産んだ子だ。

 死んで欲しいなどとは思ったことはない……もちろん、生きてほしいとも思わないけど。


「母上はお前しか見ていない! いいか!? 俺は死なん! ここで名を上げて成り上がる!」


「そうですか、ご自由に。俺は忠告しましたからね」


 貴族の嫡男が戦争に参加するのか?と思わないでもないが……。

 だが、男爵であるうちが成り上がるには戦争に貢献するのが一番の近道だ。

 特に、召喚士を倒した者には褒章が授与される。

 もし男爵が倒した場合、準子爵への道が開けるだろう。


「バルス!なにをして……ユウマか」


「おや、親父もいましたか」


「バルス、行くぞ。そいつは——もうすぐ他人だ」


「そ、そうですね。じゃあな!」


 そう言い、二人は去っていった。


「団長……」


「アロイス、すまない。嫌な気分にさせてしまったな」


「いや! 俺なんかは……団長の方が」


「ありがとう、でも良いんだ。もう諦めている」


 ……切り替えろ。


 俺だって死ねない。


 まだ、何も成していない。


 大事なエリカを守るため——ここで手柄を立てる!

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