第10話後始末

 ひとまず、起きるまで待つとするか。


 抱きかかえて、もう一人の女性の方へ歩いていく。


 もちろん、近づきすぎないように……。


「大丈夫ですか?」


「は、はい! ありがとうございました! もうダメかと……このまま犯されるんだと」


 震えている……無理もない。

 男なら殺されるだけですむが、女性は犯されて苗床にされるのだから。


「助けられてよかったです。では、少しこの方を見ててもらってもいいですか?」


「は、はい……お気遣いありがとうございます」


 未遂とはいえ、男が近づくのは嫌だろうからな。


「いえ、当然のことですから」


 ホムラという女性をゆっくりと地面におろし、俺は死んだ冒険者の元に行く。


「アロイス、どうだ?」


 身体中から血を流し、四肢の欠陥もある。

 顔は落ち窪んでいて判別がつかないほどだ。


「あったぜ、冒険者カード……銅の八級か。ゴブリン程度なら問題なかったはずだな」


「やはりゴブリンが進化したことが原因か」


 巣が大きくなったゴブリンは序列を作る。

 殺し合いをして、その中の強い個体が進化する仕組みらしい。


「ああ、おそらくな。群のボスがいるといないとでは強さは段違いだ」


「そうだな。とりあえず……かの者に安らぎを与えたまえ浄化の光ピュリファクション


 光に包まれていく……これでアンデットになることはない。


「よし、では埋めてやるとしよう」


 二人で協力して地面を掘り、男性を埋める。


 次に、討伐証拠である耳を切り取っていく。


 さらには、捕まって食料にされたであろうモノも埋めていく。


 もちろん、全て浄化した後で。


 その後、女性達の元に戻ると……。


「んっ……ここは?」


「おっ、気がついたか?」


「あ、貴方達!? ゴブリンは!?」


「君の魔法で灰になったよ。実に見事な魔法だったな」


「そ、そうでしょう!? ワタクシは優秀な魔法使いですから!」


「ただ、その後が良くない。気絶するほどの魔力を込めてどうする?俺たちがいなかったら、血の匂いに惹かれた野犬にでも襲われているぞ?」


「そ、それは……そもそも! 気絶したワタクシに何もしませんでしたでしょうね!?」


「するか! そんな外道な真似!」


「ほ、ホムラさん、ホントですよ。その方はお姫様を扱うように物凄く丁寧に運んでくれてましたよ?とっても紳士的でした」


「そ、そうですの?……誇り高き一族として、これではいけませんわね……ユウマと言ったわね!?」


「ああ、そうだが?」


「……感謝しますわ! そして紳士的だったことを褒めて差し上げます!」


「……ククク……あははっ!」


「な、なんですの!?」


「いや……愉快なやつだなと……ああ、礼を受け取ろう」


「むぅ……なんだか腑に落ちませんわ……」


 どうやら悪い奴ではなさそうだ。

 ただ、少し素直じゃないというか……。


「おい、さっさと帰るとしようぜ。血によって野犬や魔物が来るかもしれん」


「そうだな」


 ハルカと名乗る女性は無傷だったので、全員で歩くことにする。


「私、怖くて動けなくて……冒険者には向いてないみたいです。なので、辞めることにします……」


「ハルカさん、恥じることはないですよ。それもまた勇気ある決断ですから」


「そうですわ!」


「ああ、俺もそう思うぜ?」


「皆さん……ありがとうございます! 大人しく実家に帰ることにします」


 馬の近くに戻ったが……。


「おい、そういえば奴らがいないぞ?」


「私達の馬がいなくなっていますわ!」


「何頭いたんだ?」


「三頭で来ましたよ。私とホムラさんの二人乗りで」


「では、二頭は乗って行ったということか。あと一頭はどうした?」


「もしや追わせないために?逃亡でないといいがな……そうなると賞金首扱いになっちまう」


「ああ、王都に戻って自首していることを願うとしよう」


 一応、依頼以外のゴブリンソルジャーなので、情状酌量の余地はあるはずだ。


「で、でも…馬がないと日が暮れてしまいます」


 夜は危険だ。

 凶悪な魔物が活発化するし、暗闇での戦いはこちらが不利になる。


「大丈夫だ。俺たちの馬が……よし、二頭いるな」


「だが、二人乗りになるぞ?俺とユウマでは重量オーバーかもしれん」


「貴方、図体も大きいですものね?」


「……ユウマ、こいつひどくね?」


「面と向かって言うだけマシと思うことにしよう……」


「それは言えてるな……」


「ほら! ユウマ! さっさと乗りなさい! このワタクシが後ろに乗って差し上げますわ!」


「はいはい、わかったよ」


 全く、よくわからない奴だ。


「ハルカと言ったか?俺なんかの後ろでいいか?」


「はいっ! アロイスさんって言いましたよね?別に怖くないですよ?」


「良い子だ……! よっしゃ! 行くぜ!」


 それぞれ二人乗りをして、ひとまず村へと向かう。




 村に到着して、依頼書に判子をもらったのは良いのだが……。


「お願いします! そんな危険な目にあったのに、タダで帰すわけにはいきません!」


 村長は、依頼内容が違ったため冒険者が亡くなったこと。

 俺達が危険な目にあったことを気にしているようだ。


「それはお気になさらずに。おそらく、依頼を申し込んだ後に進化したのでしょう。それに、冒険者は自己責任ですから」


「そうですわ! 事前準備が足りなかったワタクシ達が悪かったですわ!」


 へえ……自分が悪いことを認められるのか。

 言葉遣いや態度とは違って、意外と良い奴なのかもな。


「まあ、二人共。こういう時は、素直に受け取っておけば良いそ思うぜ?」


「アロイス……先輩のアドバイスは聞いておいた方がいいか」


「ふむふむ……そうですわね」


 こうして、この村にて一泊する流れとなる。

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