ゼムナ戦記 狂戦士の心

八波草三郎

プロローグ

解き放たれしは

 闇の中にほのかに白が浮かぶ。


 ある場所でゆらりゆらりと揺れていた白がふいに前に流れた。もれた呼気は不安の色を含んでいたがそれも夜陰にさらわれていく。


 そこからは速い。残されるのは軽い足音だけで、特殊な機器でも用いなければ影を捉えることさえ困難。


 唐突に足音がやむと小さく土が鳴く。途端に大きな爆発音が鳴り響き、巨大な炎の赤い光が一瞬だけ辺りを照らした。


 渦巻く炎を映したのは闇の色。衝撃波がさらったのは無垢の色。


「行ってもいいのかな?」

 声音にひそむは戸惑いの色。


 わずかに朱色に照らされる中で小さな影が確かめるように見まわす。再び駆けだそうとしたところで空回りした足に引きずられてうずくまる。


「か……ふっ……」


 しばらくとどまっていた影は恐るおそるといった感じで立ちあがる。昂った感情に速くなった呼気が次第に治まっていった。


「いったいなにが……?」


 闇に溶けゆく疑問に応えはなかった。

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