第42話:おとしまえ③:暴力であろうと甘んじて受ける(残酷描写すこしあります)

もやのような光。

灰色の薄闇うすやみの土。

後夜祭こうやさいの花火のカス。

火薬のきなくささが鼻に鬱陶うっとうしくみ付く。

所々にしなびて散らばっている。

ダンボールだの発泡スチロールだの、カスカスペラペラの薄っぺらいゴミの山。

風が強い。

少し肌をけずる。

焼却炉の裏。

学校の敷地内で一番奥のそのまた隅。

裏は林。

音がれない。

なるほど、もってこいの場所だ。

5人が私を囲む。

動かない。

風がむ。

無音で林が重くなる。

黒いな、こいつらの目……。

じっと私を見るだけ。

10本の足。

ピクリともしない。

西野は喋らない。

ササッと風が吹き、一瞬、目の玉が見えた。

私と目が合う。

目の玉はやはり動かない。

私は覚悟して、グッと息を飲む。

動けず、目玉だけ動かして精一杯視界を見まわす。

薄闇うすやみに浮かぶ黒い5人の影。

遠方には誰もいない。

もう遠方は黒い。

強い風が吹く。

耳を切るよう。

木がきしむ。

胸が刺されたようにキリキリ痛む。

ドス黒い紫。

最後の残光。

焼却炉裏空地あきちに6人。

ゴミの山。

消えきれずゆらゆら空気に浮遊するくさい煙。

誰も見ていない。

誰からも見えない。

6人……。

ザザザッとゆれる林の枝葉。

奥は闇。

私は考える。

以前、自分なりに結論付けたことを。

一人でも多くの犠牲者を出す。

道づれにする。

私と一緒にさらすんだ。

私は西野をにらむ。

目は合っているはず。

西野は、やはり喋らない。

紫は消えていく。

夜に入る。

淡々と血祭りにあげるつもりか?。

私は最後の挑戦に出る。

「私と勝負しなよ。どうせ5人でメチャクチャにするんだろ?。その前に私と勝負しろ」

残り4人、西野を見る。

西野が初めて動いた。

ドクドクと鼓動こどうが鳴る。

3人組の肩がクッと上がった。

鼻息が上がる。

つばが無くなり、口の中がネバネバしている。

私は西野を待つ。

3人組も合図を待つ。

風の音だけが耳に。

すべてが臨戦体制につんのめったところで西野のあごがニタニタとしゃくれた。


「悪いけど、私、卑怯者ひきょうものなんだ」


西野の片方だけり上がった口元からニヤリと白い歯がチラついた。

そう言うと思ったよ。

泣きそうになる。

怖い……。

〝一人で背負う〟なんていきがっていたけど、そんなにカッコいいもんじゃないッ。

西野と八坂が後ろへ引いた。

3人組が私を取り囲む。

始まる……。

一人一人の目を見る。

かかとが上がり、背中が盛り上がって、今にも襲い掛かろうとしている。

ジリジリと砂利を踏む音。

耳にこすり付けられるように響く。

風。

林の闇。

一人。


私。


左後ひだりうしろからドンッと肩に腕が飛んでくる。

ビリビリッと身体からだが破けそうな痛みが走った。

ウッと嘔吐えずいて声が出る。

反射的にブンッとひじを後ろに振って威嚇いかくし直した。

すると、右後ろから、また肩にズンッと衝撃が。

私は、からみ付く蜘蛛くもの巣のように振り払う。

林の黒。

誰が誰だか判別できない。

今度は、両方の肩にドドーンッと強い波動がめり込んだ。

反応し切れず、右足が一歩前へ出て、身体がぐにゃりとつんのめる。

そこを、待ってましたと、胸座むなぐらつかみ取り、

私の首をグーンと上へ持ち上げ、

ブンブンとベンチプレスのように振りまわす。

私の全身にビーンと電気が走り、ヒリヒリと尿がパンツを濡らした。

熱い息の塊がのどつかえる。

3方向から1撃2撃3撃と、ズドンズドン胸に肩に背中に衝撃が走る。

上半身が右へ左へ斜めへこねくりまわされ、

スシめの電車のようにねじしぼられる。

いくらっても足が上半身の地震についていけない。

西野と八坂が腕をこまねいて見ている。

視界が激しくブレて表情が見えない。

3人組は、メッタメッタに私をたたき付ける。

私の身体はピンボールの玉のようにピンに当たっては狂ったようにバウンドし、

四方にグルグル行き場も分からず飛んでいく。

呼吸ができない。

たまらず声を上げる。

3人は逆に、今度は手や服やえりつかんで引っ張りきまわし始める。

ハリケーンにまれたように、揉みくちゃに引っ張られる。

遠心力で浮いたように身体が四方に引っ張られ、首をめ付けられたように顔が血で鬱血する。

息が……。

ズザズザーッと荒れ狂うようにスニーカーが地面の砂利をこする。

目がまわり、き気がして、頭がボヤける。

ひざが落ちた。

瞬間、足が背中をドグッとえぐった。

ズキンッと顳顬こめかみに針が刺さり、初めて「痛いッ」と思った。

しかし、倒れられない。

後ろからられ前に倒れても、次に前から蹴られ後ろに傾く。

そして、また、後ろから。

次は、横、斜め、上、下。

蜂の巣。

蹴りの嵐で、四方からストーブで囲まれたように身体がジンジンとふくれ上がって熱くなる。

骨がズキズキきしむ。

目が開かない。

衝撃の波動で息を吐く。

でも、吸い返せない。

酸素を欲しがり口をパクつかせ、よだれが喉に落ちて気管支に入り肺がせて焼ける。

熱い。

痛い。

舌を噛みたい。

地に倒れた。

無数の足の裏が体重ごと食い込んで落ちてくる。

何かに似ている。

もちつきだ。

私はもち米。

はじめって米の形を残す。

でも、もう力尽きてドロドロの餅に。

デロデロとアメーバ。

それでも3人はドバドバと餅をつく。

砂煙すなけむりが舞う。

砂利が口に入る。

息ができずに訳も分からず噛む。

ガリッと歯をけずる音。

顳顬こめかみに伝わって耳をつぶす。

歯茎はぐきに砂利が食い込んで肉を引きちぎりこそげ落とす。

ニヂリと音を立てて歯茎の肉がえぐつぶされる。

血の苦い味。

砂埃すなぼこりが鼻の中を紙ヤスリのようにけずる。

砂の乾いて焦げた臭い。

血でドロドロにまみれた砂を飲む。

食道がゴリゴリかれる。

助けて。

西野が……。

笑っているのか……?。

っすらしゃくれて……。

ぼやけて分からない。

暗くなる。

熱い。

息が……。

ゲボゲボ腹が嘔吐えずく。

胃酸が飛び出してくる。

ゲボゲボ、ゲボゲボ、唾液だえきと胃酸と血が混じった苦いネバネバした液体を吐き出す。

息ができない。

打ちげられた魚。

バタバタのた打つ。

誰かの靴を噛んだ。

む。

きもちいい。

ねむい。

暗くなる……。

お母さん……。

「!!!!!!!!!!!!!!!!」

腕が切れたッ?。

ちがうッ。

生爪なまづめがれたんだ。

頭がひび割れる。

最後の息をしぼり出す。

真っ白い……。

林?。

黒?。

音は?。

死んでる……。

時間が止まっちまった……。

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