浮遊感

蓬葉 yomoginoha

浮遊感  。  °  ー彼女を知るための5つの話ー

宮科柚希・・・二子長女。家でも学校でも寡黙だけれど、人が嫌いなわけではない。隠れ食いしん坊。実は風華の……。

弓代風華・・・柚希の中学の時からの友人。部活も一緒で、ふと振り返ると柚希とずっと一緒にいる。実は柚希の……。


_________


 宮科柚希みやしなゆずきは、浮遊している。

 

 休み時間の教室。窓際の席で、彼女は基本的に誰とも話さない。かといって机に突っ伏して寝たふりに興じるでもなく、ただ小さく口を開けてぼんやり外を眺めている。

 ふと何かを思い出したかのように立ち上がると、教室の隅のサボテンに水をやったりしている。


 では、クラスから孤立しているのか、というとそうではない。

 彼女と話してみたいという女子や、「なんか面白いよね」と興味を持っている子も結構いる。

 だから、ペア作りとかには困らないし、孤立というネガティブな言葉は似合わない。

 でも、実際それに近い状況になっているから、悩みに悩んだ末、私はある比喩ひゆを思いついたのだ。


「柚希は浮遊してる」


 話すきっかけがない。それがみんなの言い分だ。まあ、最もだと思う。だって柚希の方から話しかけてくることなんて、まずないだろうから。

 それはちょうど雲が地面に下りてこないのに似ている。雲は別に人間を嫌っているわけじゃないし、人間も雲を嫌っているわけではないけれど、互いにまじりあうことはまずない。

 住む場所が違うとまでは言えないから、若干的外れかもしれないけれど、けれどなかなかいいたとえじゃなかろうか。


 じゃあ、なんで柚希が孤立しないで、もっと直接的な言い方をすれば、いじめられたりせずに、ある種超越したような位置にいるのか。

 不思議だ。



 柚希はあまりしゃべらない。

 それは仲がよくてもそうでもなくても変わらない。


 私などは、柚希にかなり近い人間だと自負しているけれど、他の友だちと話す量を一とするなら、柚希との会話量はその三分の一くらいだろう。


「柚希はさ、喋るの嫌いなの?」

 一度、聞いてみたことがある。

 そう言うと、意外にも柚希は首を横に振った。

「それにしては、静かじゃん」

「そう……かな。みんなが、お喋りなだけだとおもうけど」

「いやそ……うかもしれないけど、でも柚希が静かなのもあると思う」

「じゃあ、もうちょっと頑張ってみる」

 柚希はそう言って微笑した。

 けれど、体感ではあまり変わった感じはしない。


風華ふうかって、宮科さんと仲いいよね。羨ましい」

 

 しかし、しばしば私はそう評価される。

 単純に、部活もクラスも一緒だからじゃないのかと思うが、彼女たちいわくそうではないらしい。

「宮科さんって風華といるときだけは、高嶺の花子さんじゃなくなる気がする」」

「なによそれ」


 悪い気はしないけれど、過大評価しすぎじゃないかと思う。私に対しても柚希に対しても。



 とにかく柚希は、喋らない。理由はわからないけれど、寡黙に、日常を過ごしている。

 

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