25:悪役令嬢と決意

「セリィナ様、アタシの父親が見つかったの。実はアタシって王子だったみたいなのよ」


 いつもの執事服でも、お出かけの時によく来ていたあのワンピースでもなく、見たことのない異国の王族の衣装を来たライルがいた。


「ライル、そうだったのね……」


 あぁ、やはりライルはシークレットキャラクターだったんだ。と自分の中でなんとなく納得する。だってその衣装はライルのためにあつらえたかのようにとてもよく似合っていた。


「アタシ、自分の国へ帰るわ。そこでは唯一の王太子として暮らせるの。もう両親に捨てられた子供でも、お情けで乳母に拾われた子供でもない。この赤い髪もね、その国ではとても尊いものなのよ。そこなら誰もアタシを馬鹿にしないわ」


 嬉しそうに微笑むライルの姿が、少しずつ遠退いていく。これからは手の届かない存在になってしまうのだと思い知らされる。


「待って、ライル。私、ライルに伝えたい事が……」


 まだライルに本当の気持ちを何も伝えてない。

 ライルのおかげでどれだけ助けられたか、ライルの事がどれだけ好きなのか……。せめてそれを伝えたかった。


「私……、ライルの事がすーーーー」


「ねぇ、見て?この子がアタシの婚約者よ」


 そう言っていつの間にかライルが抱き締めていたのは、私と同じ髪と瞳をした少女……ヒロインだった。


「アタシこの子が気に入ったの。だってこの子はこの世界のヒロインだもの」


 ライルの手が優しくヒロインの頬を撫でる。その手に頬擦りをしながらヒロインがにこりと笑った。


「あんたが、アタシを無理矢理に自分の執事にしたせいで出会うのが遅れたんだもの。これからはふたりで幸せになるわ」


「……ライル、私はライルが好きなの……。ずっと側にいて欲しくて……だから……」


 そうか。私がシークレットキャラクターであるライルの運命をねじ曲げてしまったんだ。


「ごめんなさい……でもあなたが好きなの……!」


 必死にライルに向かって手を伸ばすがそれが届くことはない。そしてライルは今までみたことの無いような怖い顔を私に向けた。




「殺されるしか役に立たない“悪役令嬢”が、誰かに愛されると思っているの?」




 ライルはヒロインと共に消え、私はひとりぼっちだ。


 ライルが居てくれたから私は今まで生きてこられた。けれど、ライルに嫌われたらどうなってしまうんだろう。


「ごめんなさい……好きになって、ごめんなさい……。お願い、嫌わないで……」


 ライルは王子様になったら、ヒロインと恋をして行ってしまう運命なのだ。




 私が“悪役令嬢”だから。




















「……!」


 夢……だった?


 ぐっしょりと汗をかいていて髪が頬に張りついていた。とんでもない悪夢だったが、完全に夢だったわけでもないとわかっている。


 ライルの父親が見つかったこと。そして、ライルはどこかの国の王子だってことも。


 やはり私はどこまで行っても“悪役令嬢”なのだ。と言うことも。


 でもね、ライル。やっぱり私はあなたが好き。例えそれがライルの幸せだとしても、ライルがヒロインと結ばれるところなんて見たくないの。


 それにーーーー






「どうせ殺されるなら、あなたに殺されたい」






 最後は“悪役令嬢”らしく足掻いてみよう。そう思ったのだった。

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