第34話 超長距離射撃

このままでは殺されかねないので、俺は心にもないことを言う。


「じゃあ、その女が俺を殺した件については水に流すからさ。それならいいだろ? よく考えてみれば、殺られたのは勝負の結果に過ぎないからな。恨むようなことじゃなかったよ」


『時間停止能力を使って女性に猥褻行為を働こうとした人間を信用するのは難しいですね』


「おいおい、なに言ってんだよ? その女は何千万人も殺してるんだぞ。俺が殺したのはせいぜい数百人だ。桁が違い過ぎるだろうが!」


『はい。ですから、彼女は罪を悔いて、神の座を譲ると約束してくれました。あなたはどうですか? 神の座を諦め、こちらに能力を提供してくれますか?』


「それは俺に死ねということか?」


『もちろん、決着の後に復活させることは約束します。死んでいただく際も、一切の苦痛がないよう一瞬で消しますのでご安心ください』


「復活した時、今の能力はなくなってるんだよな?」


『はい。通常の人間として復活させていただきます。お望みであれば、今回の一部始終についての記憶も消しておきますよ。その方が精神的に楽でしょう?』


冗談じゃない。

またあの鬱屈とした生活に戻るなんて。


俺はこんなところで終わる男じゃない。

だって、おかしいだろ?


これじゃあ、神様が何のために復活させたか分からないじゃないか。あいつらが宇宙にいることを神様が知らなかったっていうのか?

それじゃあ間抜け過ぎるだろうが。


なんとかなるはず。

なんとかなるはずだ。


『お返事は今この場でお願いします』


「断ったらどうなるんだ?」


『こちらには超長距離射撃の能力者がいます。射程は、この宇宙ステーションからでも余裕で届く範囲です』


完全に脅しじゃねえか!


「お、俺を撃ったら周りの女の子に当たるかもしれないぞ?」


『ご安心を。彼の能力ならミリ単位の超精密射撃ができますので、人質には一切傷付けません』


詰んだ?

俺詰んだ?


いいや、まだハッタリの可能性もある。


「そんなに言うなら、試しに手か足でも撃ち抜いてみろよ」


『いいでしょう』


「え…?」


『ただし、人を無闇に傷付けたくはありませんので、あなたの足元に転がっている小石を撃たせてみます』


俺は足元に目を向ける。

「小石ってこれ!? この2cmもないような小石を宇宙から狙うってのか?」


『そうです』


おいおいマジか?

ハッタリじゃないのかよ。


『では、お願いします』


『…ウッス』


電話の向こうで陰気な男の声が聞こえた次の瞬間、晴天の空がキラリと光った。


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