第12話 龍神様

『あの後本当に大変だった。この龍神様のおかげで……』

『ふははは、やはり我は最強なり。ふははは』


「はぁ〜」


 数十分前。


 私が吹っ飛ばした男は意識がなく倒れていて、他の2人の男は泣きながら命乞いをしてるし、女性は最初こそ驚いていたり怯えていたけど、その後は目をキラキラさせながら私を見ていた。

『やめて! その目はやめてぇ!』

 そしてもう一人?

「ふははは、主人よ皆が平伏してひれふしておるわ」等と、叫んでいた。

『もう本当にやめて欲しい!!』

 さっきとは違う意味で泣きそうになる。

 しばらくすると路地を出た辺りからザワザワと野次馬の声が聞こえて来る。


『や、ヤバい。ど、どうしよう』


 そんな事を考えていると、意識が飛んでいた男が少しづつ覚醒し私と目が合った。

『あ、ヤバ!』と思ったのだが。

 その男もまた「ひぇーっ!」と情けない声を出しこちらを見ていた。

 その時私の腕から黒く禍々しいオーラと共に龍神様の思念が出ていたなんて私は知る由もなかったのだ。

 

 私が一歩前に進むだけで「ごめんなさい、ごめんなさい、もうしませんから」と、男3人が目を合わせた後土下座にて謝り倒していた。


「はぁ〜、もう良いから。さっさとどっかに行きなさい」

 私はめんどくさい事になると思い、完全に怯えて謝っている彼らを見て、恐怖や怒りなどはとうに無くなっていた。

 まぁその原因は他にもあるのだけど。


『あ、ヤバい誰かに話されたらめんどくさいじゃない』


「ねぇ!? 貴方達」

「ひぃ! なんで、しょうか?」

『そんなに怯えなくても……』

「この事は誰にも話さないでくれませんか?」私視点


「もしこの事を誰かに話したら!」彼ら視点


「ひ、ひぇぇ〜! すいませんでしたー」

『え? なんで?』


 私はその後彼女に声をかけた。

「大丈夫ですか」

「ありがとう、ございました」

 最初は泣いていた女性だったが今は落ち着いている様子だった。

 落ち着いているというか…本当に目がキラキラしている。

『……わたし、そんな趣味ないからね』

「じゃあ私は仕事があるので行きますね」

「え? あのぉ〜、待ってください」

『いやぁ〜、待ちたくないっす。仕方ない、試してみるか』

 記憶を消す魔法はよく知らないけど、多分時間を戻すくらいなら空間魔法で出来るかも。

 そんな事を考えながら、私はイメージする。


『てか本当に出来るの? 魔法なんて』


 とりあえず、彼女があいつらと会う前の時間まで巻き戻る様にイメージをした。

 すると、脳内に彼女のイメージが現れ逆再生の様に時間が巻き戻っていく。

『うう! 気持ち悪!』

 あまりの速さに酔った時の様な感覚に襲われた。

 しばらくし、ようやく映像が止まった。

 そして、ある魔法名が脳内に浮かび、彼女に向かって発動した。


【リワインド】


 すると、彼女の周りに歪みが生じ数秒後消えていった。

『ふぅ〜、どうなったかな』

 目をパチクリしている女性。

「え〜っと、何してるんですか?」

 今までキラキラしていた瞳が今や凄い不信感を抱いた瞳へと変わっていた。

「あぁ〜、あれです。少し前、ここを通ったらあなたがここに座り込んでいたんで声をかけたんですよ、でもなかなか目を開けてもらえなかったのでどうしようかと悩んでいた所だったんですよ」

「え? そんな事……」

「あ、あれじゃないですか、どこかに頭をぶつけて少し混乱されているのかも知れませんから、あまり無理をしない方が良いかと思いますよ」

「……はぁ〜。そうなんでしょうか」

「とりあえず、立てますか?」

「あ、ありがとうございます」

「だい…じょうぶそうですね。では、夜も遅いので早めに帰って安静にしてくださいね、では」

「はぁ〜、ありがとうござい・・ました」

 ポカンとする彼女と別れ、本来の目的であるコンビニで食べ物を買い、職場に逃げ込んだ。

 外からやたらと警察の車が通っている音がする気がしないでもないけど、気にしないでおこうと思う。

 ちなみに、あの場から逃げる途中私の方を不思議そうに見ていた人の時間を巻き戻した事は言うまでもない。


 そして、今。

『うぅ〜、気持ち悪い! お腹が減ってる上にあの数の人の記憶を巻き戻すのはやっぱり酷だったか』

 それに加えて………

『我が主人よ、これからどうするのだ。ふははは』

『正直うるさいこの龍神様だが、何故か消えずに…っていっても、腕に絡まり続けているわけではないけど、ないけど声はずっと聞こえている』


『あのぉ〜、龍神様?』

『主人よ、我は貴方様の眷属ゆえ、敬語など不要じゃ』

『はぁ〜、じゃあ。 いつまで居るの?』

『うん? 我は貴方様の眷属故に、どこにも行かぬぞ』

『マジっすか!?』

『うん? どうされたのだ?』

『いや、正直ずっと居られると、うるさ……。

いや、少しやりづらいと言いますか、頭の中にずっと居られると頭が痛くなるんですよね』

『ふむ、ではこうしよう』

 そう言うと、私の胸辺りから小さな光が出てくる。

 そして、その光の中から私の片手程の大きさのぬいぐるみ!?の様な物が現れる。


「これならどうじゃ、主人よ」

「!! うわぁ!」

 いきなり喋ったぬいぐるみは、まるで生き物の様に動き出した。

「しーっ、しー」

 私はこの動くぬいぐるみの口をおさえる。

「うーうー、ぶはぁ! わかった、わかったから離してくだされ」

「あ! ごめんなさい。 ところで、本当に貴方は私の眷属なのですか?」

「無論じゃ、前にも言いましたが我は貴方様の眷属の一柱ですじゃ」

「ですじゃって…。てか、一柱ってどういう意味?」

「我は神だからのぉ」

「???」

「???」

「いやいや、柱の意味じゃなくてなんで一柱って言い方したのって意味よ」

「あぁ〜、それは我は貴方様の眷属の〝中の〟一柱だからそう言ったのじゃ」

「……じゃあ、なに! 龍神様以外にまだ眷属がいるって事?」

「まぁ、そういう事になりますな」

「ちなみに、あと何体いるの?」

「我を含めて五体の神がおるの」


「ご……五体!?」


「貴方みたいのが五体もいるの?」

「照れますなぁ〜」

「…いや、別に褒めたないし」

 龍神様は、私の悲鳴に我慢出来なくなって出てきたそうだ。

『そんなに簡単に出てきて良い〝者〟じゃない気がするけど』

「そういや、召喚魔法って大量の魔力が必要なんじゃないの?」

「確かに召喚には魔力が必要ではあるな、じゃが我は神だからな、具現化するなど雑作もない」

「……左様ですか。ところで龍神様は…」

「主人よ、その龍神様という呼び方どうにかなりませぬか?」

「え? そう? じゃあ、どう呼んだら良いのよ?」

「我の名は〝ランドロス〟と申します」

「あ〜、じゃあ〝ランちゃんね〟」

「ら……ランちゃん・・」

「え? 嫌?」

「いや、嫌ではありませんが。我は一応りゅう・・じん……」

「え? 何か言った?」

「……いえ、何もないです。〝ランちゃん〟で結構です」

「そう? じゃあ、ランちゃんね」

「はい…」

「てか、まさか本当に魔法が使えるとは思わなかったな」

「主人の魔力は、とてつもなく多いですからな」

「え? そうなの?」

「我ら神たる眷属を五柱宿されてやどされていても特に魔力切れなど起こされてないですからな」

「…確かに。 ちなみに残りの方達は何をしてるの?」

「何もしておらぬな、ただ主人の事は常に見ておるよ。まぁ、奴らにも色々な性格のやつがおるからの」

「へぇー、そうなんだ」

『まぁ、今はどうでも良いか』

「じゃ今からまた仕事するから、大人しくしててね」

「では、邪魔にならない様我も主人の中に戻るとしよう。何かあればまた気軽に呼んで下され」

「そか、わかったわ。さっきはありがとうね」

「何を言われる、お気になさるな」

 そういうと、ランちゃんは消えてしまった。

「よーし、頑張りますか」

 私は確信した、またあの世界に戻れるのだと。

 そして、私はもう一人ではないという事を。


 その後私は仕事に没頭した。

 いつの間にか朝になっていて少しづつ職員が出勤して来る時間になっていた。

 8時半を回った頃、昨日大量の仕事を寄越した上司が出勤してきた。

 そして、部下を呼びつけては本日の仕事を言い渡していた。

 まぁ、自分が早く帰りたいから部下に押し付けているだけだけどね。


『主人よ、まだ仕事をしておったのか?』

『うおう! ビックリした。まぁね、昨日あの上司に大量の仕事を押し付けられてね、多分今日の夜には終わると思うけど…』


佐伯さえき

『え?』

『うん? どうしたのだ、主人よ』

『いや、今私の名前を呼んだのよあの上司』

「佐伯!! 何してる早く来い!!」

「はい!」

 上司の元へ向かうと。

「今日の分だ!」

「え? ですが昨日大量に仕事を渡されましたよね?

これは今日中には終わりませんよ?」

「ああ!? なに? 終わらない? 終わらなくても終わらせるんだよ。グダグダ言ってないで早く働け!!

それとも何か? 他に仕事が欲しいってか?」

「いえ、そんな事は!」

「だったら、早く戻って仕事しろよ!」

『……悔しい、悔しい。こんなに頑張ってるのに、なんであんな奴にあんな事言われないといけないのよ。

もう、嫌、こんな仕事、もう嫌だ』


『主人よ、我に任せるのじゃ』


『え?』

 ランちゃんがそう言うと一瞬でその場の雰囲気がガラリと変わった。

 しかしそれに気づいているのは私と、目の前の上司のみだった。

 周りの人達は普段と変わらず仕事に没頭していた。

 そして、その上司はというと……。

 この世の終わりの様な表情をしていた。

 その後上司から……

「佐伯、これはやっぱり今日はしなくていい、今ある仕事が終わったら……ひぃー。まぁ無理のない程度に終わらせて帰りなさい。そうしなさい、うん」


『へぇ?』


 私は自分の席に戻り上司を見ると大量の汗をかいていた。

『ランちゃん、あいつに何をしたの?』

『なに、ちょっと睨みつけてやっただけよ』

『へぇ〜。なんかよくわからないけど、ありがとうランちゃん』

『お安い御用でございます主人』



〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜

 上司視点


「ああ!? なに? 終わらない? 終わらなくても終わらせるんだよ。グダグダ言ったないで早く働け!!

それとも何か? 他に仕事が欲しいってか?」

「いえ、そんな事は!」

「だったら、早く戻って仕事しろよ!」


『うん? なんだ何か暗くなってきた様な』


『おい、お前!!』


『え?』

 頭の中に聞こえる不気味な声、それは佐伯の方から聞こえてきた。

『ひぃっ!!』

 佐伯の方を見ると、後ろから赤色の鋭い眼光がこちらに向けられていた。

 とんでもない威圧感、憎悪、殺気、圧迫感普通にしていても脂汗が出てくる。

『お前は昨日、主人に大量の仕事を渡したと主人から聞いたが、これは何だ?』

『これ、は今日の仕事……で』

『じゃあ、何か? お前は、出来もしない事を主人に押し付けたという事で良いのか?』

『いや、そういうわけでは』

『ふむおかしいのぉ、では、なぜ、主人はあんなにも苦しんでおるのじゃ? のぉ〜、人間よ』

『しかし、これは仕事で……』

『仕事じゃと!? お前の言う仕事は悔しくて泣きながらするのが仕事なのか? もし、お前がお前の行いにより主人が悲しむのなら、我はお前を許さぬ。我はお前の事を潰すくらい造作もないぞ、いや、お前と言う存在を無かったことにする事など造作もない。さぁ、どうする人間、これでも主人にこの仕事を与えるのかのぉ?』

『……いえ、もう致しません。すいませんでした』

『それで良いのじゃ』

 その後、スッと周りの威圧感等が消え、佐伯の後ろには何もない普段と変わらない光景が映っていたのだった。


〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


 ランちゃんが何かした後から、上司は私に何も言って来なくなった。

 むしろ逆に気遣われることが増えた。

『キモっ!』

 18時を過ぎた頃ようやく仕事が終わり、私は上司に終えた書類を渡しに行った。

「お疲れ様です、佐伯さん。今日はゆっくり休んで下さいね。あと、明日は今日出勤してくれたのでお休みにしますのでよろしくお願いしますね」


「………はい、わかりました」



『なに? なんなの? ランちゃん、マジであなた何をしたのよ!!』


 久しぶりに早く終わったので外でご飯を食べる事にした。

 頑張った自分へのご褒美だ。

 その後、少し買い物をしたのだが……。

『買いすぎたな…』

 手で待って帰るのが大変な量を色々と買ってしまった。

『どうしようか…。あっ! そうだあれを試してみよう』

 私は周りに誰もいない所まで行き、誰もいない事を確認をした上で、空間魔法を構築・発動する。

『よし、できた』

 目の前に歪みが現れ、その中に買った物を入れていく。

 そう、これは異空間に物を保管できる魔法だ。

『前から使ってみたかったのよね』

 ほぼ全ての物を入れ、家に帰ることにした。


『ふぅ〜、2日ぶりの家か』

『ここが主人の住まいなのですね』

 そう言い、ポンと小さなランちゃんが出てくる。

「ランちゃん、そんなに簡単に出てきて良いの?」

「何がですか?」

「いや、具現化を維持するには魔力が必要でしょ?」

「あぁ〜、そこは心配ご無用我の魔力もまた桁外れに多い故問題ない」


 本来、眷属召喚にて召喚された眷属が具現化するには、魔法を使用した者の魔力を必要なのだが。

 私の眷属達はその桁外れの魔力が故に自身で補えるおぎなえるそうなのだ。


「あっ! そうですか」

『神ってやっぱり凄いのね』

「ところでランちゃんは何を食べるの?」

「食事ですか…。いや、我らは基本眷属故、何も食べなくても問題ないが、まぁ我は野菜以外なら何でも食べるぞ」

「なんで、野菜食べないの?」

「え? それは……。き○いじゃからじゃ」

「え? なんて言ったの?」

『はっはぁ〜ん、野菜嫌いなんだな!』

「…まぁ良いわ。何か食べる物でも作るから待っててね」

『今日は気分が良いからねぇ、何か美味しい物でも作って食べるとしましょうか』

 その後、異空間に入れた物を取り出した。

『あ! この魔法凄い、この中に入れて置いたら時間が止まるのか』

 店で買ったアイスが全く溶けたなかったのだ、本来なら多少なりと溶けてしまうのだが、カチカチのまま維持されていた。

『これなら、わざわざ冷凍庫に入れなくても良いな。電気代も節約できるし』

 私は冷蔵庫の中の野菜やお肉等の食品や飲み物系、冷凍庫に入っている物全てを異空間へと入れた。

『何も無くなったな』

 もともとそんなに入っていない冷蔵庫だが、見事に何も無くなってしまった。

「さて、料理再開……あっ! 食材全部入れたんだった」

 今日使う分を再度異空間より取り出し、料理を作り始める。

その間、ランちゃんはというと広い部屋を縦横無尽と飛び回っていた。

『子供か!!』

「おぉ〜、広いのぉ〜」


 しばらくしてご飯ができた。

「ランちゃん、ご飯できたよ」

「我の分も作って下さった、のか………。」

「うん? どうしたの?」

「いや、我は野菜以外なら……」

「食べられるよね? 野菜!」

「いや、我は野菜以外なら……」

「た・べ・ら・れ・るよね?」

「………善処します…。」

「ふふふ、よろしい」


 ランちゃんは、これでもかってほど嫌そうな顔で野菜を少しづつ食べていた。

『ちゃんとお肉も入ってるんだよ、うん。意地悪はしてないよ』

「主人どの…。まだ食べないといけませんか〜」

「全部残さず食べてね」

 久しぶりだった、こんなに楽しい夕食は、向こうに居た時はソフィーやアリエラ様、侍女さんと食べてたけど、こっちでは一人きり、それが当たり前だと思っていた。

 しかし、今日から? で良いのかな、新しい家族が増えた。

『龍神様だけどね』

 でも、可愛いし守ってくれる。

『明日はいっぱいお肉用意しなくちゃね』

 半ベソをかきながら野菜を食べるランちゃんを見て、思わず笑ってしまった。


「主人どの、笑うのは酷いで御座いますよ」

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