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「肯定派の最終弁論を行います。運動会は開催するべきです。開催するメリットは、『自分が運動会をつくっているんだ』という能動意識を明確にするためです。否定派はコロナ禍で運動会を開催してクラスターが発生する心配があるといいましたが、それでも開催すべきです。なぜなら、子供でいられる時間は限られているからです。なにより、ぼくたちが小学生でいられるのは今年が最後なのです」

 陽介はいま読んだ最終弁論をまとめたルーズリーフを、怜雄の前に置いた。

「つづきはえっと……」

 すぐに見つけられない怜雄に、「ここ」と陽介は指をさす。 

「えーっと、否定派は能動意識を明確にするのは運動会でなくてもできるといいましたが、運動会であることがなによりも大切です。理由は、全校児童をはじめ、先生たちや親たちが一緒に体験できる学校行事は運動会しかないからです。小学六年生のぼくたちの人生において、子供のときにしか体験できない唯一の機会なので、小学校最後の運動会を開催すべきなのです」

 つづいて否定派の蘭華から、まとめたものを読み上げていく。

「否定派の最終弁論を行います。運動会は中止するべきです。中止するメリットは、新型コロナウイルスの感染集団をつくらないためです。肯定派は能動意識を明確にするのは運動会でなければならないといいましたが、それでも中止するべきです。なぜなら、密になった結果、感染して重症化、ひどければ亡くなる人が出るかもしれないからです」

 読み終えると蘭華は、すーっと李厘に原稿の書かれたルーズリーフを送った。

「肯定派は、運動会を開催するために換気と密にならな工夫、感染予防の徹底を参加者全員が意識して取り組めばできるといいましたが、運動会を中止することがなにより大切です。理由は、中止して密にならないことが感染の予防となるからです。現状ではワクチン摂取がはじまったばかりで集団免疫も望めないので、運動会を中止すべきなのです」

 互いに一礼して、ディベイトは終了した。

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