異郷の鬼

「よくわからないけど、あんた人の育ちをどうこう言える身分じゃないじゃん」

生田あかしは公園のベンチにどっかりと腰をおろし、足をばたつかせている。真新しい靴の履き心地が気に入らないようだ。

「留学のことなら誤解も甚だしいわ。父が鬼に殺られ時に建売住宅が一軒買えるほどの報酬を貰ったの。請求したのは母よ。それを切り崩しながら細々と育ててくれた。そう思ってたんだけど、母は看取り屋の仕事をわたしに内緒で続けてた。一切、手をつけなかった。わたしを慮って。その時、母は…」

負の感情を持つ存在と形而上の死闘を繰り広げて来たため、邪気に心身を蝕まれていたのだ。

「笑顔で送り出してくれた。でも、それは母の計算だった。わたしに看取り屋の跡取りにさせたかったんだわ。だから、あえて留学させた」

ふうっ、とあかしは吐息した。胸が詰まるような重い話だ。

「で、あんたの生い立ちとあたしが命を狙われる理由がどうつながるんだい?」

「言ったじゃない。京には根深い因縁や恨みを持つ存在が残ったって。さっき攻撃してきた奴の正体はだいたいつかめてる」

「?」

「”異郷の鬼”よ。遥か故郷を離れた地や異国で無念の内に死んだ魂よ。徳富蘆花の思出の記にあるわ。知己後輩の望を負うて居ながら異郷の鬼となられたかって。貴女のおかあさん。亡くなった理由に心当たりがあるんじゃないの?」

いわれて、あかしは地面に転げ落ちた。

「靴から足を離さないで」

みどりは彼女をとっさに抱え起こしつつ、銃を構えた。

しばらくかばう様な格好で銃口と視線を巡らせる。だが、風が子供たちの嬌声を運んでくるだけだった。

緊張の糸が解けたようにだらりと銃をおろし、スカートのなかにしまう。

そして、続けた。

「あかしのおかあさん。線路に降りたんじゃない。あいつ、足を狙ってた。だから、靴を置いてきた」

「……どうして、それを?」

言われた側はみるみる蒼白する。

「異郷の鬼よ。あなたの”あたらしいお父さん”、外国の人でしょう。それでアイツは嫉妬したの」

「それいじょう、いわないで」

あかしはガタガタと歯をかみあわせた。

「ええ、言うわ。あなたを亡き者にするために、ここへ呼んだ。だからあたしも招かれた」





















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