第12章 さくらへの誓い 【2】

 大春おおはる医師の案内の下、廊下の角を曲がりエレベーターに乗り、辿り着いたのは、東棟の5階だった。

5階のエレベーターホールに出ると、そのまま角を曲がり、ナースステーションの前に出た。

「すみません! たつみ師長はいらっしゃいますか?」大春医師はナースステーションに呼ばわった。

「あら、大春先生。どうされました?」

「巽師長。515号室の白石しらいしさんにお客さま。『5分だけ』とは言い添えてあるので、やんややんやとは言わないであげてください」

「まあ。分かりました。それで白石さんへのお客さまというのは?」

「あの、俺です!」俺は大春医師の後ろから進み出た。

「あなたは……白石さんのご家族?」

「いえ、恋人です」

「あらやだ。ごめんなさいね。てっきり……。そうだ。この書類にお名前を書いてください」

巽という看護師長は俺に見舞い客用の記入表と筆記具を差し出してきた。

俺はそれらを受け取ると、自分の名前と現在時刻を書き込んだ。その時に、日中のうちにさくらの母親が来ていたことも知った。

「退出時刻欄があるということは、帰る時にまたここへ来れば良い、ということですね?」

「話が早くて助かるわ。その通り。帰りにまたここへ来てください。よっぽどのことがなければ、少なくとも誰かはいるはずですから」

「分かりました。ありがとうございます」

「じゃあ、西浦にしうらさん、行きましょうか」

「はい」

大春医師に連れられ、俺はさくらの待つ515号室を目指してナースステーションを後にした。


大春医師に連れられ、515号室の前に辿り着いた時、俺は既視感を覚えた。この扉はどこかで見たことがある。

一瞬、「どこでだっけ?」と思ったが、すぐに、「さくらの緊急オペの終わり待ちにお手洗いに立った時」だと思い出した。

「西浦さん。白石さんのお部屋はここです。私は下へ戻るので、5分とは言え、ごゆっくりお過ごしください」

そう言うと、大春医師は踵を返して廊下を戻っていく。

「ありがとうございます」俺は彼の後ろ姿に控えめな声で礼を述べると、改めて病室のドアに向き直った。

「さくら」俺は小さく呟いた。「入るぞ」

あまり音が響かないよう気を付けながら軽くノックをして、俺は扉を引き開けた。

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