第2話

 アイリスは懐からメモ帳を取り出して読み始めた。


「○月△日、あなたはこのように仰っいましたわね」


『いいか! 俺様は天上人だ! 誰よりも偉い立場なんだぞ! フハハハッ! どんどん敬え! まぁなんだな、その俺様から見れば、貴族ってのは伯爵家以上だな! それ以下の爵位、たとえば子爵家でギリギリ平民だな! 更に下の男爵家のヤツらは奴隷みたいなもんだ! 平民? アイツらは人間ですらない! 家畜だ家畜! フハハハッ!』


「う、ウソだ! で、でたらめだ!」


 イーサンが慌てて否定する。それも当然で、現在この講堂に集まっている生徒の8割近くは、平民と下位貴族の子息女が占めているのだ。


 伯爵以上の高位貴族は2割ほどである。貴族社会のピラミッドのヒエラルキーは、学園の中にもちゃんと反映されている。貴族社会の縮図が学園であるとも言える。


 そんな場所で下位貴族や平民を蔑視するような発言をすればどうなるか? 答えは火を見るより明らかで、講堂に集まった生徒達からは殺気がだだ漏れて来た。


 ここで肯定なんかしたりしたら、間違いなく暴動に発展してしまうだろう。だからイーサンは必死に否定する。


「俺様がそんなことを言ったなんて証拠がどこにある!」


「ここにありますよ」


 すると生徒達の中から、執事服を着た男が現れた。


「き、貴様! ハリス! なんでこんな所に居るんだ!?」


 それは王宮でイーサン付きの執事をしているハリスだった。


「我が主の命に従い、録音機を持参致しました」


「ろ、録音機だと!? それに我が主ってなんだ!? 俺様は貴様なんぞ呼んでおらんぞ!?」


 イーサンは混乱する。


「私が呼びましたわ。ハリスは我が家の使用人ですのよ?」


 アイリスがサラッと口にする。


「なにぃ!? 聞いてないぞ!」

 

「言ってませんから」


「貴様っ!」


「そんなことより、ハリスお願いね」


 アイリスはイーサンを無視して話を進める。


「はい。イーサン殿下はあの日、そこにおられる取り巻きの方々とかなりお酒を飲みながら話しておられました。先程の続きからお聞き下さい」


 そう言ってハリスは黒い録音機をカバンから取り出した。イーサンの取り巻きどもの顔が真っ青になる。ハリスが再生ボタンを押した。


『...いいか! 奴隷や家畜には何をしたっていいんだ! ヤツらは人間じゃないんだからな! フハハハッ! 俺様は天上人だ! 神なんだ! 貴様らは俺様の言うことを聞いてりゃいいんだ! そしたらたっぷりと良い思いをさせてやる! 俺様を称えよ! フハハハッ!...』


 会場中の殺気が一段と濃くなった。


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