ユラユラと揺れ彷徨う

門前払 勝無

第1話

「ユラユラと揺れ彷徨う」


 ビルのガラスに反射する朝焼けは私の憂鬱を嘲笑っていたー。

 さっきまで生ゴミを漁っていたカラスまでも上空へ飛び立ち私を見下していたー。

 寂しさを紛らわすために街を歩くー。

 人は嫌いだけど人恋しくなる。

 興味ないと言いながら其奴の事を考えて東西線の窓に映していた。


 あっちのビルとこっちのビルの隙間から見える蜃気楼が私を誘ってる。何か在るのでは無いかと私の足は動き出す。

 皆と居るときは無邪気なふりして騒いでいる。皆は山手線の改札へ、私は東西線の階段を独りで下りてゆく、一歩づつ心の幕が下りてゆく、太陽が沈むように暗くなってゆく、エンドロールが目の前にながれている。


 美久ちゃんは大人になったら何になるの?


 …何者かになる。


 先生は顔をしかめていた。


 写真家を目指しているカオリが新宿の猫を撮りたいから付き合ってと言ってきた。私も暇だからオッケーして二丁目をフラついた。小さな飲み屋街に居る猫達をカオリが撮影している隣で私は荷物を持っている。

「お姉ちゃん達一杯飲んで行くかい?」

小料理屋の女将さんが声をかけてきた。

 私とカオリは休憩がてらに小料理屋へ入った。

「ここら辺の猫は太ってるでしょ?」

「あ、そうですね。毛並みも良いし健康的ですね」

カオリがタケノコのお通しを箸で摘まみながら返答した。

「猫の写真を撮って何をするの?」

「写真展を開くんです」

「凄いじゃない!貴女は写真家さん?」

「まだ駆け出しです」

「でも、凄いわよ!」

「そんな事無いですよ」

「こちらのお嬢さんも写真家さん?」

「あ、いえ、私は何者でも無いです」

タケノコの美味しさに気をとられていた。ほんのりと甘塩っぱい汁がじっくりと染み込んでいて、噛む度に口に優しい味が広がってくる。そして飽きない歯応えがたまらなかった。

「まだ将来を考えてないの?」

「あ、はい…」

「良いじゃい!いっぱい悩んで色んな経験して決めていけば良いのよ!」

「そうですかね…」

女将さんが笑いながら頷いた。熱燗を差し出して“呑んで”と言った。

 三人で談笑していると男の人が入ってきた。

「あら、早いね」

「またクビになったよ」

「あらら、なにやらかしたの?」

「生意気なガキがいてぶっ飛ばした」

「その割にはアザだらけじゃない?」

「あのガキ、ボクシングやってたみたいで苦戦したよ」

「まぁ大したこと無さそうで良かったわ!ビール?」

「ありがとう!」

男の人が加わって四人で談笑は続いたー。

 カオリはカメラを皆に向けて談笑している所を撮っていた。

 女将さんは昔ストリッパーで歌舞伎町ナンバーワンだったとか、男の人は小説家を目指してずっと迷走している。カオリは写真家になるために奮闘している。


 私はー。


「美久ちゃんさぁ!小説家書いてみな!」

男の人が急に言ってきた。

「自分が何者か解らないからそれを知るために文章を書いたら良いんだよ!俺なんて自分がクズだからクズな小説しか書けないもんよ」

女将さんもカオリも頷いていた。

「龍ちゃん!先生になってやんなよ」

女将さんが言った。

「ダメだよ!俺は仕事探さないとだもん」

「生活費貸してあげるから美久ちゃんの先生になってあげな!あんたの小説は面白いけど悲しすぎるのよ!美久ちゃんなら良い具合に書きそうな気がするよ」

カオリが恥ずかしがってる私を何枚も撮ったー。


 そして、小説を書くことになって龍ちゃんが先生になった。


つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る