オタ芸?ヲタ芸?

 僕はしがないアイドルオタクである。ライブに行ってはペンライトを振り回し、

コール&レスポンスは全力で叫ぶ。もちろん推しへの特別な掛け声だって全力でやる。もちろん『オタ芸』だって欠かさない。自分の身体全身を使って、推しへ全力でアピールするのは、疲れを感じさせず、「オタクすげー」ってやっている自分でも思える。いくら気持ち悪いだの迷惑だの言われてもやめるつもりはない。

 何故なら、これが自分たちオタクにとって最大限で最上級の愛情表現であるからだ。

 アイドルオタクを始めて、かれこれ5年目。このグループに関してだけ言うと、かなりの古参勢になれるのではないだろうか?やはり学生の身分では、CD100枚なんてことはできないけれど(いつかやってみたい)、日時さえあればライブにも行く。CDだって一枚は買う。グッズだって、それなりに持っている。部屋着だって推しTだし、部屋の中だってポスターなりグッズなりにまみれている。

 そんなある日、クラスの男子、久野 そらに声をかけられた。特別何か部活にも入っているわけでも、生徒会をやっているわけでもないのに、彼は何故かクラスの男女問わず人気だった。運動部でもないのに、細身な身体な割にしっかりとした筋肉を持っているのを僕は、体育の着替えをしている最中に見てしまった。そんなクラスのトップカーストにいる奴が、僕程度に何の用だろうか?

「なあ、清水。お前、ヲタ芸やってんのか?」

言い忘れていたけど、僕の名前は「清水 かける」と言う。僕は突然すぎる問いに戸惑いに戸惑い、挙動不審になってしまった。もちろん、ここでYesと答えようものなら、オタクであることを吹聴され、馬鹿にされるのは分かり切っている。ただNoと答えるのも、我が真理に反する。推しに嘘を吐くことはできない。そんな、クラストップカーストのオーラというか圧に押されて………

「……うん……。」

と小さくうなずいてしまった。

「そうか!なら良かった!今週どこか空いてる日あるか?」

何故か、ものすごく喜んでいる。もしかして彼も同志だったりするのだろうか?

今週のスケジュールを思い返す。残念なことに予定は入っていない。

「今日も空いてるけど……。」

「じゃあ、6:30か7:00くらいに中央公園の東ステージに来てくれ。」

「何をするつもりだ?」

「言わなくても分かるだろう、ヲタ芸だよ、ヲタ芸。清水も……いや、翔もやったことあるんだろう?」

「まあ、そうだけど……」

追って『ライブでもやってるの?』なんて聞こうとしたが、そんなものがこの町で行われていないことくらいは知っている。やはり、僕をからかっていただけなんだろう。

「その時間、多分夕食食べてるから、無理。」

断った。僕はNoと言える日本人だ。では、なぜ最初から断らなかったか、それは推しへの愛に反するからだ。

「どうにかして、来てくれ、頼む。あと一人メンバーが必要なんだ。」

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僕の頭の中に大量の?が浮かんだ。

 メンバーって何ぞ?オタ芸は、ライブ会場にいる人と動きを合わせることさえあれど、

チームを組んでするということはない。あくまで個人技だ。僕も相当キョトンとした顔をしていたのだろう。僕らは何か、大きな勘違いをしていたらしい。しかし、そこはトップカーストの一角。柔軟な対応を見せてきた。

「わりぃ、今言ったことは忘れてくれ。まあもし気が向いたら来てくれ。大抵火曜と水曜にやってるから。」

「お、おう。」

 そんな突然すぎる会話から、僕のーオタクとして「オタ芸」をやる生活は、一パフォーマーとして「ヲタ芸」を打つ生活へとシフトして行くのだった。

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