THE GARAKUTER'S

津屋崎晋

第1話【序章】

 今から約37年前の話をしよう。57歳のわたしが20歳だった時に起きたことを。

それはあまりに情けなく、呆れた、馬鹿げた、底辺から見上げた人間の真実である。わたしはその過去を恥じるつもりもなければ、振りかざして誇るつもりもない。ただ輪郭の失われた現代に「墓標」としてではなく、「石碑」として

この物語を打ちたてようと思う。


 あの日、わたしはメンバーと共にステージの上で輝くスポットライトを浴びた。それは2000人もの観客の前でのコンサートだった。楽曲も、寄付された

機材も、楽器も全て揃っており、ステージ上で見合わせるメンバーの顔も清々しい。ベースを担当するわたしが率いるバンドは、あの時まさにスターとなって

歓声を浴びたのだった。しかし、ただ一点、異様なことがあった。

どよめく観客はみな坊主頭で、動作もぎこちなく、加えて彼らの周囲には

厳重な警備が置かれている。わたしたちのライブ会場は、罪を犯した若者たちが

収容される少年刑務所だったのだ。そして、受刑者に音を披露するわたしたちも

また、同じくして受刑者であった。

 しかし、わたしは思った。現状がどうであれ、音楽をやる者にとっては

至福の時間であると。


「晋さん!行くぜ」

ギターを担当するタムさんがわたしに声をかけた。―晋さん(しんさん)というのは、晋(すすむ)というわたしの名前のあだ名だ―わたしは黙ったまま笑顔で答え、いよいよ一曲目を始める合図をした。

受刑者を一斉に集めた体育館に、わたしのスラップベースが響きわたる―。

・・・・・・・・・・・・・・・2話へ続く・・・・・・・・・・・・・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る