メタリック・シルバーの介護と滑稽

ゴテゴテした箱の集合体やマネキン人形が床を踏み鳴らしている。シリンダーが舟を漕ぐ様は滑稽としか言いようがない。機械の民族舞踊を一通り見学した後、ナースステーションに通された。

「機械体にリハビリって?」

立ち眩みを起こした私に医師が薬を出した。「半空間無視や片マヒなど生身の症状は機械体に継承されます。そこからの回復をエミュレートするんです」

「それではパーキンソン病や脳血管障害は?」

私は片頭痛を堪えながら矛盾を指摘した。「進行をデジタル薬で抑えつつ機能回復に励んでおられます」

ますます不可解だ。私なりに要約すると、こうだ。内臓疾患はデジタル化され投薬による副作用や病気特有の苦痛は緩和されている。機械の身体は排泄介助も褥瘡もない。心不全や脳出血など突然死からも解放された、ただスローな死が予約されている。

「それって生殺しじゃないですか」

非人道的だと訴える私を彼は一蹴した。「悶死するより倫理的でしょう。経管づくしの病床は過去の物です」

この時代、人間は死を克服しようともがき苦しんでいる。心身を幾ら機械化しようとも「魂が死んでしまう」のだ。カウンセリングや思考ルーチンの見直しでは退治できない根源的な死神の尻尾を掴もうと、機械化緩和ケアを用いて黄泉に至る過程を研究している。ホームの利用者たちは利用されているのだ。

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