第五話

 異動になってもう二年が経つ。

相変わらずA市に居続けている。

真面目に仕事をして、いい成績を上げ続ければ本社に帰れるかとも思ったが、むしろ逆効果で、営業部を引っ張っていく役目を負わされている。

本社に戻りたい俺にとっては、迷惑な役目だ。

 

 かといって、手を抜くようなことができない性分だから、自分でも困ってしまう。

(あ~あ。癒しが欲しい)

こっちにきてからは、コピーや名刺整理などもすべて自分でやっている。

最初のうちは、何度か頼もうとしたこともあった。

でもワザとか?と思うくらいに頼みたいタイミングで席をはずされたり、ほぼ終わるころになって手伝いを申しでたり。

自分でやったほうがストレスがないと気づいたのだ。

(いつ、何を頼んでもニコニコ引き受けてくれて……ありがたかったな)

 

 そんなある日、俺は法事のために、ひさびさに実家に帰ることになった。

異動になってからは、一度も帰っていない。

帰ったところで一緒に遊ぶ友人もいないから、どこで過ごしても一緒だ。

 

 法事も無事に終わり、久しぶりだから泊って行けという兄からの誘いを、明日も仕事だからという理由で断った。

そのまま帰ってもよかったが、気まぐれに駅の隣のショッピングモールに寄ってみることにした。

 

 けれど思った以上に人が多く、人ごみが嫌いな俺は喫茶店にでも行こうとモールを出た。

モールを出ても人が多い。

うんざりしながら見まわした目の端に、懐かしい人を見たように思った。

 

 (え?まさかな。でも見間違えるはずはないし)

その人のほうに近づく。

(間違いない)

俺はまよわず声をかけた。

「立花さん。おひさしぶりです」

 

***********************

 

 (やっぱり週末は人が多いのね)

予約していた、来週末の切符を受け取りに駅に来た私は、隣のショッピングモールに寄って帰ることにした。

店に入ろうとしたところで『立花さん』と呼ぶ声がした。

 

 『おひさしぶりです』と続く声の主の姿を見て正直びっくりした。

「え?大和さん?どうされたんですか?」

つい、そう聞いてしまった。

部署への報告で上がってくる業績として大和さんの名前を聞くものの、一度もこちらに帰省していないらしいと田中さんから聞いていたからだ。

 

 「お久しぶりですね。元気にされてましたか?」

「おかげさまで。立花さんもお元気そうでなによりです。今から買い物ですか?」

「買い物というか、ウインドウショッピングでもしようかなと思ってたところです……目的はないんですけどね」

「じゃあ、よかったらコーヒーでも飲みませんか?」

 


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