苦しみのライター時代

 僕が学校に通い小説を書き始めるようになってから初めてぶち当たった壁は、「小説の文章」だった。

 小説を書くようになってしばらく、いや何年もの長い間、僕は小説の文章は何を書いたらいいのかよくわからなかった。

 小説初心者によく見受けられるのが、地の文を二、三行書いて台詞、また地の文を二、三行書いて台詞、の繰り返しになることだ。どうやって文章を運んでいったらいいかわからないから、おのずと台詞に頼りがちになってしまう。

 小説の文章の練習法でよく、プロの作家の小説をそのまま丸写ししてみる、というのがある。僕も実際やってみたことがあるけど、効果のほどはわからない。


 僕は小説を書くようになって何年も経って、ようやく気づいたことがある。それは、「小説の文章はべつになんでもいい」ということだ。

 その作品のコンセプトに合っていて、物語に沿ったものであるなら、あとは自由に書けばいい。とくに意識せず書いていても、書き手の個性はおのずと滲み出てくる。


 専門学校で生徒たちが賞への応募作品を書いている時、よく聞いた話が、「文字数超過で規定に収まらない」ということだった。文字数が多くなってしまうというのは、学校だけでなくカクヨム内でもよく聞く話だ。

 だけど僕は逆に、初めから「文字数が足りなくなる」タイプの人間だった。内容を結構端折って、できるだけ簡潔に、文章の流れと読みやすさを重視して書くタイプ。こういうエッセイだと結構ダラダラ書いてしまうけど、小説になると一気に改行の回数が増えると思う。まあ、書く作品にはよるけれど。

 僕はカクヨムコンの長編に二作応募したことがあるけど、二作とも最終話まで書き終えた時点で10万文字に届かなくてあたふたした。途中からたぶん足りなくなると思って、少しずつ文章量を割り増しにしていったけど、それでもやっぱり足りなかった。

 僕は最近読んだカクヨム作品で、自分と近い文章の書き方をしている人と出会った。その方もかなり簡潔に文章を書いていく人だ。最近その方が近況ノートで「10万文字超とかの作品を書くのは難しくて、自分は中編くらいが向いている」というようなことを書いていて、あっ、やっぱり、と僕は思った。この人も文字数が足りなくなる方なんだ、と。


 僕はある時期、クラウドソーシングを利用してライターの仕事をしていたことがある。クラウドソーシングというのは、家にいながらネットを介してクライアントと直接顔を合わせることなく仕事を受注できるシステム、みたいなものだ。わざわざ外に出なくていいので小説執筆の時間も確保しやすく、文章の勉強にもなりそうで一石二鳥だ、と思って始めた。

 だけどそれは完全に失敗だった。

 まず、クラウドソーシングでのライターの仕事は、ものすごく単価が低い。だいたい1文字いくらという設定があって、初めはだいたいよくて1文字0.5円ほどか、足元見てるようなとこだと0.2円とか0.1円とかもある(1万文字書いて千円だぜ?)。

 ライターの仕事の多くはWebに載せる記事を書くことで、まず検索サイトで情報を収集し、得た情報をわかりやすく文章にまとめていく。情報を調べるだけでもかなりの時間を食うことになるので、僕の場合時給換算で500円にも満たなかった。報酬は文字数に対して支払われることが多いけど、前述のように僕は文章量を割り増しさせることが苦手なのだ。一日中ヘトヘトになるまでやっても、普通にバイトしている時の半分もいかない。


 それから、ライターの仕事は同じ文章を書くという仕事でも、小説を書くこととは正反対に近い位置にあった。

 ライターでの文章は極力自分の個性を打ち消して書く。ここまでこのエッセイを読んできた方ならわかる通り、僕は個性の塊、常に他人とは違うことをしたがる捻くれた人間だ。

 僕は自分にしかできない仕事をするために、小説家を目指している。だけどライターでは、それができない。自分が出せない。それが、すごく辛かった。同じ文章を書く仕事なのに、僕はこのライターをやっていた時が一番苦しかった。ハンバーガー好きなのにハンバーガーを食べられずにマックで働かされているみたいなものだった(わかりやすい例えでしょう?)。


 だから、僕はその後ある小説投稿サイトに辿り着いた時、水を得た魚のように歓喜した。ライターの時とは明らかに世界が違う。そこは「創作」の世界だった。「ここが自分の居場所だ!」と強く思った。


 というわけで、次回最終回!(もはや専門学校の話ではなくなっている)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る