ヴォルカニックざまあ~異世界への生きる希望を描く Go To異世界キャンペーンとたけしの運命

水原麻以

異世界で火事場泥棒的に荒稼ぎする方法

「Go To…異世界…なぁ」

たけしは便箋を前にして思い悩んでいた。

先立つ不孝をお許しください。定番の挨拶から筆がいっこうに進まない。

テーブル席の数メートル先を扶桑キャンターがゆっくりと走り去った。運転手が液晶画面に目を血走らせている。最近では安全運転が徐行運転になった。理由はどうあれ人殺しは人殺しだ。最近では手口が知れ渡っているらしく警戒が厳重になっている。それがたけしをますます億劫にさせていた。

「お父さんお母さん。たけしは異世界で元気にやっています…じゃ、おかしいな」

呟いてはかぶりをふる。繰り返すこと2時間。給仕が追加注文を聞きに来た。


中国が咳をしてアメリカがくしゃみして日本が風邪をひいて回りまわって世界経済と医療が崩壊の崖っぷちにいる。先立つ緊急事態宣言で余剰金を使い果たした政府は打ち出の小槌を常軌の外に求めた。お得意の異次元財政である。日銀が札をじゃぶじゃぶ刷る代わりに轍輪が殺っと地面を擦るようにした。


GoTo異世界キャンペーンは整理解雇や連鎖倒産で余った人員を地球でない場所に送り込むという捨て鉢だ。国民がトラックに轢かれて転生するまでの費用を国が補助する。保険金、慰謝料、葬儀代、埋葬費すべて込み。転生した先でチートを存分に発揮する。そして得た富を引っ提げて現代日本に転移してくるという壮大なプランだ。

もちろん所得税や相続税が課される。

「内定も取り消されたし院に行ける頭も金もないしな…」

たけしは両親に申し訳なく思った。老々介護を支え合う二人の脛は齧れない。

気力でペンを握りしめる。

すると見えない手がフワッとそれをつかんだ。

そして素早く走り書きする。

「その命、預からせてくれないか?」


たけしは絶句した。

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