第3話 飴玉、別視点(やや百合。昨日の別視点)


「もー」

「……」

 顔をぱたぱた仰ぐリンコを、私はじっと眺めていた。

 真っ赤なリンコ。林檎ほっぺの可愛いリンコ。

 ふわふわ髪のセミロング。笑うと下がる目尻に、健康的なまぁるいほっぺ。


 可愛いリンコ。


 この子を見ていると、思い出す。

 昔飼ってた、金魚のヒメちゃん。

 シュッとした朱い身体に、真白の腹。尾ひれは、ふわふわ、ひらひら、ドレスのよう。

 そう、だから『ヒメ』。


 ヒメ。ヒメちゃん。


 大きな金魚鉢の中を、優雅にすいすい、ふわふわ泳いでいたヒメちゃん。

 まるで踊るみたいに。

 美しくて、可愛くて。

 小さな私は、彼女に触れてみたくなった。

 あの綺麗な身体に、一瞬だけでも触れたくて。

 餌をついばむ彼女に、そっと、そっと手を──……


「……祥世?」

 ハッと我に返った。

「どしたん、ボーッとして」

 目の前のリンコが、きょとんとした顔でこちらを見ている。

 リンコ。可愛いリンコ。

 触れたい、触れ合いたい。そう、いつも願う。

 あのときと、同じように。

 けれど、私はもう知っている。

「ううん、別に?」

 金魚は、人が触れたら火傷する。

「何でもないよ」

 相手を無視した愛は、きっと相手を傷付ける。

「それならいいけど……」

 釈然としない顔のリンコに、私は笑ってみせた。

 苦笑、に近いかも知れないけれど、安心させたくて。

「さ、そろそろ帰ろ」

 話を変えるために立ち上がる。

「そだねー」

 リンコも、同じように立ち上がった。


 ……いつか。

 きっと、可愛いリンコは、恋をする。

 私以外の、見知らぬ男と恋をする。


 身を焦がすのは、そのときの私一人でいい。


 それまでは、どうか。


「そーだ、今度の週末、さっき見た焼き菓子店行かん?」

「ダイエットはどしたー?」

「あー……来週からで!」


 明るく、眩しく笑う彼女を、独占させて。

 朱く染まる、夕暮れの教室で。


 END.




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