God Bless You
それで、目が覚めたら病院に居りました。
その頃僕は単身者用の
寝ている間に手術が行われたらしく、僕は内臓の一部を損傷していました。幸い、生命維持には支障がないそうです。腹に傷跡の痛みは感じながらも、妙に清々しい気分でした。
車椅子を使えばすぐに移動もできましたから、目覚めてすぐ尿意を覚えた僕は、介助ロボットの付添で御不浄に向かいました。
ロボットに支えてもらって用を足し、車椅子用の洗面台で手を洗おうとしたその時です。
僕は、生まれてはじめて僕の顔を見ました。
洗面台の鏡には、姉は映っていませんでした。
顔自体は姉によく似ていましたが、それは紛れもなく、僕でした。
病室に戻ったら、モニターが用意されていました。
そしてこんなことを言ったのです。
「アナタは、自分に子宮があったことをご存知でしたか」
と。
想像なすってください。声変わりして、髭も生えて、何より立派な陰茎を持つ自分に、トツゼン「子宮があった」なんて言われた日のことを。
「ハア?」
と、僕の口から出たのはそんなマヌケな音でした。
しかし、一拍置いて、僕は全てに合点がいきました。
つまり、その子宮こそが僕の中にこびり付いていた姉の残滓だったということです。
「再建は、一見して不可能なほどに破壊されていました。それで、摘出するより他になかったのです」
「ということは、僕の中に、もうその子宮は存在しないのですね」
そう訊くと、モニターの中の女性はやはり神妙な顔のままコクリと頷きました。
……僕はようやく、あのシツコイ姉を追い出して、このカラダを僕だけのものにできたのだ。
その事実が全身の血管を駆け回り、手が、足が、喜びに打ち震えました。
「センセイ、どうもありがとう。アナタは僕の望みを叶えてくれました」
その時の僕は、トビキリの笑顔をしていたことでしょう。
ああ、彼女……あのハスッパな年上の女性とは、結局その後会えませんでした。彼女のことだから、サッサと僕に見切りをつけて、他の男のもとへ行ったのでしょう。
でも、僕が姉から自由になれたきっかけは彼女ですから、感謝しています。だから彼女の吸っていた銘柄を、この日のことを忘れないために吸っているのです。
とにかく、僕は僕自身を守り切ることができた……そう思っていたのです。
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