第20話 愚かな女 2

 前書き

『トクトリ』続き



ヒント

取り調べ官Bさんは本家の方には出ていません。 


******************


【特別取調室】



「その方が金になるからに決まってるじゃないか!」



黒い笑みを浮かべながらそう答える彼女。

おー、見事なクズ発言ですね。



これまで、何人も取り調べをしてきましたが、その中でも1、2を争うクズっぷりですねー。

Bさんが驚いて彼女を睨んでます。



彼女はそれを気にもせず、腹立たしげに



「あの子の父親のデュークはね、ロピアー前公爵の子供なんだよ。

妾の子だったから養子に入ってたけどね。

学園にいる時に知って、せっかく落として子供まで作ったのに、結婚前に落馬して死んじまったのさ!」



と、一気に捲し立てた。

鑑定結果には、確かにナルキス君の実父デュークの父親は、前ロピアー公爵となっていましたね。



「それで?『貴女がロピアー公爵家で働いている。』という事は、前公爵はきちんと貴女達親子を引き取って、乳母の仕事も世話してもらったわけでしょ?

何の不満があったんですか?」



本当に、いったい何の不満があるんだか……



「贅沢な暮らしする為には、自分の子供が当主になるのが一番金になるからね!

でも、それには現公爵の子供が邪魔だったんだよ。」



うわぁ、本当によく喋るし発言がクズだねー。

よっぽど誰かに、喋りたかったのかね?



それにしても、何処からあの指輪を手に入れたのか要チェックですね。



「ところで、貴女はこの計画が成功してたら、どうするつもりだったんですか?

もし、ナルキス君が当主になれても貴女の立場は唯の乳母ですよ?」



公爵家当主の乳母に、それ程権力は無いと思いますけどね。



「当主になった後に、『あたしが本当の母親だよ。』って言えば優しくて馬鹿なあの子はきっとあたしを優遇してくれるわ!」



おいおい…流石にそれはどうかな?



「公爵夫妻が黙っているとは思えませんけどねぇ?」



私の質問に彼女は笑いながら、



「病気か事故で死んでもらえばいいのよ!

当主の権力を使えば、簡単な事じゃない。

使用人は当主の奴隷なんだからさ!

そんな事もわからないのかい?」



そう言って彼女は優越感に浸っているが、既に破綻している計画を自慢げに話されてもねぇ。

それに、言う事を聞いてくれる使用人は居ないでしょうね。

今までの、態度が態度ですから。

命令した途端に、騎士団に突き出されると思いますよ。



お家乗っ取りの上に、公爵夫妻殺害計画ですか?

コレはまた、罪状が増えましたね。



彼女は理解していないようだが『爵位簒奪未遂』だけでも罪が重いのに、『公爵夫妻殺害計画』まで考えていたとなると、かなりの厳罰になるなぁ……



こんな彼女に育てられていた、ナルキス君も気の毒にねー。

と、なると早いうちにボルネオール侯爵家に出された、本物の公爵子息のクリス君は運が良かった。

と、いうことか。



いや、運じゃないかもしれないな……



「さて、今日の取り調べはここまでです。

明日は、もっと詳しくその計画を教えて頂きますね。

マリー・フォルランさん、お疲れ様でした。」



彼女が騎士に連れられて取調室から退室した後、私は大きく溜息をつきながら、供述調書をとっていたBさんに話しかけた。



「よく黙ってましたね。

彼女…貴方が一番嫌いなタイプでしょ?」

するとBさんは供述調書から顔を上げて答えた。



「明日の尋問、代わってくれるんですよね?」



何時もと目つきが違う……

あー、コレは怒ってますね。

彼女も気の毒に……



******************

数時間後【第四騎士団団長執務室】



(取り調べ官B視点)




「あー、やっと終わった。

今日は、いつになく疲れましたね。

副団長も疲れたでしょ?」



先程、出来上がったばかりの供述調書をチェックし終えた、団長のだるそうな声がする。



「お疲れ様です。団長。」



「じゃ、明日からの尋問よろしくお願いしますね。」



その言葉に私はニッコリと微笑んで、帰り支度をしながら答える。



「やり甲斐のある容疑者ですからね。

頑張りますよ。」



「副団長の笑顔には癒されるねー。

普段怖い顔してるから。

家の娘に言わせると『ギャップ萌え』って言う奴らしいですよ。」



団長のお嬢さんか……



「確か今、学園の高等部でしたよね?

暫くお会いしてませんが、お元気ですか?」



すると団長は嬉しそうに



「元気にしてるよ。

最近、学園でちょっとした事件があってね。

少しばかり活躍したらしい。」



と答えた。



「それは頼もしいですね。」



我々は他愛ない会話をしながら、王城の門を出た。

外はすっかり暗くなっている。

もちろん、王城の周りは魔道灯で明るく照らされているのだが。



「こういう日は飲むに限るね♪どうだい一杯?」



と、団長がグラスを傾ける仕草をする。



「いえ…私は呑めませんので……。」



私が断ると団長は……



「あゝ、そうだったねー。

残念…じゃ、また明日ね。」



と、言いながら迎えの魔道車に乗り込み自宅へと戻って行った。



「さて、私も帰るか……。」



ふと、空を見上げると今日は満月だったらしい。



綺麗な月だ……



………。



「腹が…減ったな…。何か食べて帰るか。」



月明かりの下、城下の飲食街に向かって歩き出す。



「何か良い店ないかなぁ…。」



******************


後書き



当初の予定から随分違う展開に……

この作品のヒロインはエリーのはずなのに

気づいたらヒロインがクリスになってた件ww

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