第13話 もう1つの指輪

前書き


引き続きクリス回(本編)

第四王子大暴走!



******************

【王城・宰相府宰相補佐官室】



こんにちはクリスです。




殿下と共に今日も朝から大量の書類を処理し、やっと休憩に入ったところだ。




「殿下、コーヒーを淹れましょうか?」

そう声をかけると殿下は

「あゝ、ありがとうクリス。

君の淹れてくれるコーヒーを飲むとホッとするよ。

それだけに残念で仕方ない……。」



いったい何が残念なのだろうか?

気にはなったが、コーヒーを淹れる為に席を立つ。




殿下はブラックで私は砂糖もミルクも入れる。

私がコーヒーを飲む度に、周りの人間から怪訝(けげん)な顔をされる何故だ?




私と同じ飲み方をされる方を、1人知っている。

以前お仕えしていたロピアー公爵様だ。

所用で来られた公爵様を、殿下が偶然お見かけし、何故か補佐官室で一緒にコーヒーを飲む事になった。




殿下にコーヒーを淹れるように言われたので、いつも通り淹れたところ、公爵様はいたく気に入られ王城へ来る度に、補佐官室に来られるようになった。




もちろん忙しい時は対応できないのだが、殿下は何故か私にコーヒーを淹れるように即す。




そんなある日、いつもはペンダントにしている【父親の形見の指輪】のチェーンが切れた為、一時的に指にはめていた。


偶々通り掛かったエミール殿下に


「その指輪、どこで手に入れたのですか?」


と聞かれ『父親の形見で子供の頃から持っている。』と答えると殿下は怪訝(けげん)な表情を浮かべて……



「それ、良くない物だから、外した方が良いですよ。

まぁ片方だけなら良いかもしれませんが……

もしもこの指輪のもう片方の持ち主がいた場合、気をつけた方が良いです。」



と言われた。



それから更に数日後、侯爵家からとんでもない知らせが届いた。

エリーお嬢様にナルキス様が学園の生徒の前で『婚約破棄をする』と宣言したというのだ!

しかもナルキス様が挙げた理由は、全て冤罪であったという。




その報告を聞いたシオン殿下も呆れていた。

「あり得ないだろう……。

しかも何の裏付けも取らずに、浮気相手の言う事を鵜呑みにするなど…。

あの男が公爵になったら、領地が潰れるのが目に見えている!」

私もそう思います。

とは、口が裂けても言えませんが……。




そのうちシオン殿下がとんでもない事を言い始めた。

「もうこの際、お前が公爵家継いじゃえばいいのに!

幸い叔父上にも気に入られてるし、顔もそっくり!

コーヒーの飲み方とか、もう親子にしか見えないぞ!」

何て事を言い出すのですか、貴方は!?

その言葉に呆れていると

「もしかしたら本当に親子かもしれんぞ?

そうだ、良い考えがある。

最近エミールがサイド家(*1)と開発した【鑑定の魔道具】というのを使わせてもらおう!」



「それにな…実は『ナルキスを廃嫡して、お前を養子に迎えエリー嬢を嫁に迎えようか。』という話が出ているんだ。」


「は?!ナルキス様を廃嫡?

私を養子にしてエリーお嬢様を嫁に!?

ちょっと何を仰っているのか理解できないのですが……。」



そんな事あり得ないでしょう。



「そう言いながらお前、随分と嬉しそうだぞ?

特に『エリーお嬢様を嫁に!』のくだり。」



そんなバカな!殿下に気づかれただと!

私のエリーお嬢様への気持ちは、誰にも知られてはいけないのに! 



驚いている私に殿下は更に



「それにお前、学園の寮にいた時、野良猫に名前付けて可愛いがってたろう白×黒ハチワレのメス。

『エリス』何て名前付けて♪」


な、何故それを!


「安心しろよ。あの猫は今、公爵家で飼われてる。」

えっ?何故公爵家で?

学園にいる時は、私にしか懐かなかったのに……。



「高等部入学式に行った叔母上が、ナルキスのあまりの残念ぶりに倒れてしまってな。

医務室で休んでいたら全力で慰めてくれたそうだぞ♪」 


あゝエリス……

私だけだと思っていたのに…


「あ、叔母上にはちゃんと猫の名前は『エリス』だと教えて置いたから♪」



あまりの話に呆然としていると、殿下は私の肩に手をかけ


「じゃ、早速行こうか♪」



「何処へですか?」


「もちろん【鑑定の魔道具】を試しにさ!

なるべく沢山のデータが欲しいって言ってたから試しに使ってみよう!」



殿下…本当は仕事サボりたいだけでしょ!!





―――――――――――――――――


*1

【サイド家】


ハーシー&タークの実家


錬金術と魔道具の研究と製作を生業としている伯爵家。

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