第9話 小さな名探偵

【錬金科研究室兼探偵同好会部室(通称・事務所)】



「実は、今ある男の事で相談を受けていてね。」


狭い、すっごく狭い。


エリーと2人だった時はさほど狭さを感じなかったのに、もう1人依頼人が入って来ただけで、ただでさえ狭い部屋がもっと狭く感じる!

(凄く失礼)


「あの話し聞いてもらえてるかい?」


「す、すいません……先輩。

出来れば場所移してもいいですか?」


「構わないよ……やっぱり私がこの部屋に居たら狭いよね?」


今回の依頼人は【淑女科の王子様】こと淑女科三年のキイナ先輩だ。


研究室兼事務所として使っている部屋は、元々階段下のデッドスペースを無理矢理部屋に改造して、窓を付けた部屋で、元より狭い。(いわゆるウナギの寝床型)




そこへ142㎝エリー《168㎝》キイナ先輩183㎝は無理がある。


僕は机の上に正座。


エリーは壁に変な格好で、貼り付いている。


先輩に至っては、天井に支えてしまう為床に直接膝を抱えて座っている。


この部屋、高い所で天井まで160㎝しかないんだよね。


だからかなり重要な話しが無いと、エリーでさえ部屋の中には入って来ない。




今更だけど、もしかして誰も同好会に入ってくれないのって、この部屋の所為なのかな?

あれ?だからこの部屋だけ空いてたの?


だ、騙された……


兄さんが熱心に勧めてくる物件だから、信用してたのに!

もう騙されないんだから!

この後僕らは、仕方なくバーン先生に頼み、錬金科準備室を借りて、改めて先輩の相談を受けた。


翌日、兄さんがニコニコしながら近づいて来た。

そんな笑顔で近づいて来たって許さないんだから!

「あっ!ターク♪

バーン先生から新婚旅行のお土産でチョコレート貰ったんだが食べるか?」


「食べる♪♪」


(隣で見ていたエリー)

『チョロい。チョロ過ぎますタークちゃん……

でもそこが可愛いのですわ♪』




僕らは、キイナ先輩に依頼された、サンソン(クズ)について調査を始めた。

(『どうやらお仕置きしてほしいようですね』前編参照)

エリーはその広い人脈で、被害状況の確認。

僕は出没エリアの特定と、資金源の調査。


エリーの方の被害状況の確認は、やはり難航しているみたいだ。

『アイツの被害に合った』とは、女性の方から言い難いからだろう。


出没エリアの特定は、比較的早く終わった。

エリーのツテで、学園街の人達の協力を得られたからだ。


問題は、アイツの資金源。

実家は地方郷士だし、三男で勘当寸前。

当然仕送りなどほとんどないだろうし……




そんな時、意外な方向から手掛かりが見つかったのだ!

きっかけはバーン先生からの依頼だった。


******************


【錬金科準備室】




テーブルの上には、大量のクッキーと紅茶がある。

クッキーは、奥さんの手作りだそうだ。


「家の奥さんの実家の質屋に、最近同じアクセサリーを大量に持ち込む男がいるんだって。

それがどうも学園(うち)の生徒らしいんだよね。

それだけで犯罪になるわけじゃないけどさ。

何か有ってからじゃ遅いし。

向こうには、話し通しとくよ。

忙しいところゴメンねー。」


いつも無口なバーン先生が饒舌だ。


「あ、良かったら君も食べる?凄く美味しいよ♪

美味しいのに太らないんだよ♪」


美味しいのに太らない?


「頂きます。」 


サクッ


!!


一口食べて気が付いた、そうかこのクッキー『おからクッキー』だ。

確かにこれなら太らないかもしれない、

“食べすぎなければ”……。


奥さんバーン先生の健康の為に頑張っているんだね。

でもこれだけ大量だと、あまり意味がない気がする。


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