婚活勇者と仲間

第1話 勇者、召喚する



 『ブレイブファンタジー』、通称ブレファン。とあるアマチュアゲームクリエイターがキャラクターデザインとイラスト以外は一人で作成したと言われている王道RPG。インディーズゲームでありながらその出来栄えは大手メーカーのRPGにも引けを取らないと言われており、2018,2019年のガチゲーマーが選ぶ人に薦めたい名作ゲームランキングでもトップ3を受賞している。


 RPGの中でもPLが主人公を操作して目的のために冒険をするような所謂王道RPG作品が好きな私も例に違わずブレファンが大好きだった。素人が趣味で作ったPCゲームとは思えないほどのボリュームと重厚なストーリー、高難易度ながらも決して理不尽ではなく作業と思考のバランスがよく取れた戦闘システム。主人公をはじめとする魅力的なキャラクターと味のあるグラフィック。勇者となって魔王を倒し世界を救うというシンプルな主軸ながらも従来の王道RPGと異なり魔法が存在しなかったり独特のスキルシステムを採用していたりと、新鮮味のある作品でもあった。


そして、この作品が評価される大きな理由でありこの作品が面倒なゲームと言われてしまう大きな理由としてマルチエンディングシステムが存在する。こういった勇者系RPGにおけるエンディングは基本的に一種類で、あるとしても特殊な裏イベントをこなした際に見ることが出来る真エンディングが存在する程度。ストーリーは一本道が基本である。


ブレファンは魔王を倒した後のエンディングが5種類も存在する。その全てにクリアスチルがあるという美少女ゲームと勘違いしそうなほどの拘りが見られる。意地の悪い事にエンディング分岐へのフラグはゲーム序盤から要所に配置されている為クリア前のセーブデータで複数のエンディングを見ることはほぼ不可能、さらにセーブデータは一つしかないという不親切設計。多くのブレファンプレイヤーは嘆きながらも約30時間にもわたるゲームを周回することになるのだ。


 普通にプレイする分には非常に楽しいがコンプリート要素が鬼畜面倒という悪魔のような神ゲー、これがブレファンである。ちなみに5種類のエンディングの内容は全て勇者が結婚するというもので、クリア特典で見ることが出来るヒロインキャラの花嫁衣装イラストの可愛さも相まって周回プレイの苦行に繰り出す者は決して少なくない。

 私も初回プレイではシェリノア・リーヴェシュタイン姫と結婚して始まりの国であるリーヴェの次期国王となるノーマルエンディングを迎えた。後に攻略サイトにて旅の仲間であり私の推しキャラである薬師リコリスと結婚することが出来ると知って『さいしょから』を選んだ。


「・・・というのが私の知っているブレイブファンタジー。わかった?」


 私は何故このゲームについて詳細に語っていたかというと、あろうことかブレファンのプレイヤーキャラクターである勇者デリックに説明をさせられていたのである。


「ゲーム?ブレイブファンタジー?待て、さっぱり理解が出来ない」


 ちなみにこの説明は3回目だ。本当は私の方が説明をしてもらいたいのにこの頭の固い勇者様ときたら「何故俺の事を知っている」の一点張り。この宿屋っぽい部屋から外に出してくれないし私の質問にも全然答えてくれない。


「つまり君は、異世界から俺の事を見ていたということか?」


「そんなのわかるわけないじゃん、私にとってブレファンは異世界じゃなくてゲームだし、だいたい勇者デリックはそんな流暢に喋らないし」


「この俺が流暢だと!?」


 ブレファンの勇者はテンプレ通り選択肢以外で喋らない。これは解釈違いだ。


「だって私の知ってる勇者は基本的に『はい』『いいえ』しか喋らないんだもん」

 初対面では状況がつかめず脊髄反射でテンション爆上がりした、だって目の前に大好きなゲームのキャラが現れたのだからオタクだったら誰だって興奮するしかないと思う。でもよくよく考えたらどう見てもコスプレじゃないし、大体私は自分の部屋でテスト勉強してたし、窓から見える街はゲームで見たリーヴェの街並みそっくりだし、あり得ないっていう気持ちを押しのけて合理的に考えてしまうとこれはゲームの中に入ってしまったとしか思えない状況。

 冷静になればなるほど意味わかんないし、だから説明して欲しいって言っているのにこの勇者ときたら逆に質問責めをする始末、普通こういうのってしっかり準備して召喚とかするものじゃないの?


「むむむ・・・よくわからないがとにかく、異世界人である君は俺の事を知っている。そういうことだな」


「そう、あなたが勇者だってことも、お父さんが蒸発したってことも、旅立ちの日に王様から貰えるのは銅の剣と1000Gだっていうことも全部知ってるの」


「そんなことまで知っているとは、もしや君は異世界の神?または天の遣いか何かだったのか?」


「神でも天使でもないってば、ただのRPG好きな女子高生。老舗でも何でもない布団屋の一人娘。部活はやってないし彼氏もいない。何の変哲もないつまらない普通のJKなの!」


「た、頼むから知らない言葉で説明しないでくれ・・・君の言っている事が殆ど理解できないのだが」


 勇者は私が想像したよりもヘタレというか、鈍くさい、朴念仁って感じ。ビジュアルは確かにかっこいいのだけど喋れば喋る程に原作とかけ離れてダサく見えてくる。いや、こっちが原作か?


「ぐぬぬぬ・・・」


「ていうか君って呼ぶの辞めてよ。私は藍浦伊吹(あいうら いぶき)だから」


「そ、そうかすまない。イブキか、変わった名前だな」


「そうかもね」

 異世界モノのテンプレートみたいな返しだ。


「私の事はもういいんじゃない?そろそろなんで私を呼び出したのかちゃんと説明してよ」


 大体私は呼び出されたのか偶然召喚されてしまったのかも知らない。


「君・・・っと、イブキを召喚した理由か」


 ぐぬぬ、と言いよどむ勇者。解釈違いのぼーっとした勇者だけどさすがゲームのキャラクターだけあって顔がいい。設定どおりの赤茶色の少しはねた髪にキリっとした切れ長の瞳、勇者らしくがっしりとした肉体と頬の傷。ゲーム越しでは知らなかった指先のゴツさとか首が思ったより骨太なところとか、声は思ったより低いところとか、自分の知っている勇者とは違う部分や知らなかった特徴がたくさんあるのに目の前にいるのが彼本人だと自然と納得できてしまう。


「ねぇ、早く答えてよ」


 あんまり悩まれるとジロジロ見てしまうのでごまかし半分にせかしてみる。


「俺の妻にしようと思って・・・」


「はぁ?」


「だから、この世界に理想の女性がいなかったから異世界から召喚した者を妻にするつもりで呼び出したんだ!」


「・・・はぁぁっ!?」


 私を呼び出したのは、とんでもない勇者だったようだ。



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